グローバルマーケター進化論 #01

「重要なのはWhyの核心」キンドリルジャパンCMO加藤希尊氏が語るグローバルで進化し続けるマーケターの資質【新連載スタート】

 

グローバルの交渉力


――加藤さんが考える、グローバルマーケターに必要な資質やスキルセットは何でしょうか。

 グローバルマーケターとしてはやはり、先ほどお話ししたWhyの核心をいかにきちんと捉え、プライオリティを見つけて、グローバルに向けてその背景情報をロジカルに、かつビジネスと結びつけて伝え、投資を勝ち取れるかが最も重要だと考えています。それができれば、ジャパンチームのキャンペーンマネージャーやイベントマネージャーなど、日本国内の各機能も動きやすくなります。

 昨今のマーケターを見ていると、「イベントが得意です」「デジタル広告を回していました」「SEOができます」といったように、Howの部分を重視する人が多いと感じます。その結果、「リードをこれだけ獲得した」とか「SNSでバズった」といった何らかのWhatや成果を得る人もいるわけですが、さらに2歩3歩と進んだグローバルマーケターとして活躍するには、Whyの核心をいかに掴み、交渉によって独自のプライオリティを獲得できるかが問われてきます。

 そのためのスキルセットは、言語はもちろん、クリティカルシンキングやロジカルシンキングから始まるフレームワーク力、つまりバラバラな物事に意味合いを見出すという能力が必要となります。意味合いというのは、たとえば日本市場での認知度や売上を分析することだけでなく、そこからきちんと意味を見出し、私たちがフォーカスすべき領域やプライオリティを見つけることです。その上で、そのプライオリティをグローバルと交渉して勝ち取ることができるようになれれば、世界で通用する人材になれると思います。

 単に、与えられた範囲のチャネルマーケティングを頑張るだけでは、指示待ちの役割にとどまってしまいます。私がマーケターにとって何よりも大事だと思っているのは、自分でビジネスを決断していく勇気と覚悟です。

 グローバルな交渉力を身に付けるにあたっては「やってみるしかない」としか言えませんが、ひとつ象徴的なお話をすると、先ほど紹介したマイアミでのグローバル会議で、あるゲームをやりました。3人が1チームになり、バラバラのピースを合わせて指定の図形に仕上げるという内容です。バラバラのピースを持っている1人に対して、別の2人が指示を出して完成形に近づけていきます。全員が英語ネイティブのチームと、英語は第2言語で母国語がそれぞれ異なる人で構成されたチームに分かれました。私は後者のチームです。

 普通なら、全員が英語ネイティブのチームが勝つと思われるでしょう。しかし勝利したのは英語が第2言語の方のチームでした。みんな母国語が違うからこそ、ピースの呼び方について事前に擦り合わせていたのが勝因でした。この結果から強調したいのは、同じ言語を使うからといって、プロトコルが合っているというわけではない、ということです。ちゃんとロジックがあれば、英語ネイティブ同士でなくても正しいコミュニケーションができます。この結果は興味深かったので日本法人でも試してみたところ、やはり母国語を使わずに取り組んだチームが勝ちました。英語で挑んだ米国チームや、日本語で挑んだ日本チームは勝てませんでした。

―― グローバルな交渉を勝ち抜くためには、単に語学などのスキルだけではなく、プロトコルが重要なのですね。本日はありがとうございました。
  
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