創造的思考の源泉とマーケティング #05
グロテスクなものに踏み込めるのは親の「愛」があったから【元テレビ東京ディレクター上出遼平】
人間の恐怖やグロテクスなものに踏み込める理由
萩原 最後に質問です。上出さんが、本来は人間の恐怖の対象である説明不可能なものやグロテスクなものに次々と踏み込んでいけるのは、なぜなんですか。
上出 いろいろな要素があると思いますが、最近ぼんやりと思うのは、親にめちゃくちゃ愛してもらったということですかね。僕はそれで、おそらく深い安心感みたいなものを獲得したんだと思います。そうすると、恐れるものがすごく少なくなっていくんですよね。
たとえば、アイデンティティの問題でも、自分は自分でいいんだと常に思える。あと、自分の人生をもう十分に楽しめているという感覚もあって、いろいろなことに対して名残惜しいという気持ちがないんです。だから、グロテスクなものに踏み込むことが怖くありません。そして、常に自分の歩く先に絶対に面白いものがあるという確信もあります。
萩原 想像していたのと真逆の答えでした。勝手に上出さんは、すごく不幸な目に遭っているのかなと想像していました。
上出 そういうこともあります。人に言えないようなえげつない経験もしていて、それは確かに深く根を下ろしていますね。
萩原 なるほどな。すごくよくわかりました。
上出 親に愛されることは当たり前ではないし、自分ではどうにもならないことなので、あまり積極的には言わないようにしています。ただ、どうして僕がこうなったのかと聞かれたら、やはりそこにはどうしても「愛があった」のではないのかなと思っているんです。今はもう、家族と会うことはできないんですけど。
萩原 上出さんの番組は、愛がないとつくれないだろうなと感じます。
上出 そもそも「愛って何だ!」という問題もありますけどね(笑)。それが何かを大切に思うことだとしたら、自分が愛されて大切にされてきたから、自分の周囲の世界も大切なものだという眼差しがもてるのだと思いますね。
萩原 愛し方を知っているというか。
上出 そうですね。それって、おそらく生まれながらのものではないと思います。
萩原 間違いなくそうだと思います。
上出 そんな書籍がありましたね。ドイツの社会心理学の研究者だったエーリッヒ・フロムさんの書籍『愛するということ』(紀伊國屋書店)です。これを読めばきっと、愛についてわかります。
萩原 読んでみます。本日は、貴重なお話しありがとうございました。
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