TとVがひとつになって~消費者とマーケティングの視点~ #01

新Vポイント誕生、CCCが歴史あるTポイントの名前を捨ててまで追求したものとは 【撫養宏紀取締役インタビュー】

 2024年4月22日、カルチュア・コンビニエンス・クラブグループ(CCCグループ)のTポイントと、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)のVポイントが統合し、新生Vポイントとして新たなスタートを切った。統合によって会員数(有効ID数)は1.46億人に上り、日本の人口を超える。アクティブユーザーに絞っても8600万人が使っていることになり、国内外のVisa加盟店でも使えることから、「ポイント経済圏」の競争激化を象徴する動きとして、他のポイントサービスの動きと絡めながら、メディアで連日のように取り上げられた。

 新生Vポイントを運営するCCCMKホールディングス(CCCMKHD)と三井住友カード(SMCC)もまた、モバイルアプリの利用やクレジットカードの新規入会でポイントが付与されるキャンペーンを展開し、「大盤振る舞い」とも呼べそうな一大プロモーションで攻勢をかけた。「祭り」的なスタートダッシュが一息つき、真価を問われるのはこれからだ。

 Agenda noteの本連載は、新生Vポイント事業を中心で担ったキーマンに、消費者、そしてマーケティング領域に対してポイント統合がもたらす影響について連続インタビュー。第1回はVポイントの運営実務を担うCCCMKHDの撫養宏紀取締役に、「世界一の企画会社」をビジョンに掲げるCCCが、歴史あるTポイントの名前を捨ててまで追求したものは何かを聞いた。
 

ポイント市場の成熟と原点回帰


―― TSUTAYAを展開するCCCが日本における共通ポイントの祖である「Tポイント」を誕生させたのは2003年10月でした。TSUTAYAだけでなく、提携する店舗でポイントを貯められる共通ポイントは当時、斬新に受け止められました。

 当時はまだ、お店ごとのポイントカードが主流で、買い物の時はレジでたくさんのカードから選び出し、時には財布に入れ忘れちゃって…といった光景が多く見られました。集客につなげようとお店側がカードを導入するほど、ユーザーからすると不便に感じられ、それなら1枚のカードで共通ポイントを貯められれば便利だよね、という発想からTポイントが始まりました。

 ポイントは元来、「囲い込み」の意味が強い施策ですが、顧客にとって不便になってしまっているという問題意識が、Tポイント誕生の背景にあったわけです。

 私たちはTポイントを共通プラットフォームとして使ってもらい、ユーザーがもっとポイントを使いやすい世界にしたいという思いがありました。その後の20年間に、さまざまな共通ポイントが生まれ、キャッシュレス決済も浸透する中で、日本のポイント市場はすごく成熟したと考えています。今や、誰もが複数のポイントを持ち、店側も複数のポイントを使えることを前提として、お客さまがそれぞれのライフスタイルに合わせて選択できるようになっています。

 ただ一方で、私たちが当初目指していたような「何者にも縛られずポイントを楽しめる」という思想よりも、限られた市場を奪い合う「ポイント経済圏の争い」という面が強調され過ぎてしまっているのではと、危機感がありました。その意味では、今回SMBCの決済サービスと連動することは、「どこでもポイントが貯まって使える」という当初の世界観に立ち返り、ユーザーにポイントをより楽しんでもらえるように進化することになります。こう考えると、私たちのやろうとしていることは、20年前からそれほど変わりませんね。
 
CCCMKホールディングス 取締役
撫養 宏紀 氏

 1975年神奈川県出身。1999年にソフトウェア開発会社に新卒入社後、プログラミングの教育部門やWeb開発に従事。2007年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループに入社し、店舗POSや会員ID、ポイント・電子マネーなど事業のインフラ構築に幅広く携わる。IT部門の部長職を経て、2022年4月よりCCCMKホールディングス 取締役に就任。2024年4月よりカルチュア・コンビニエンス・クラブ 執行役員CIOに就任。現在に至る。

――新規のモバイルVカード登録者が、新生Vポイント開始1ヶ月で100万人を突破したと聞いています。これはどのように評価されますか。

 メディアで取り上げていただいた効果もあって、新規で100万人がモバイルVカードに登録してくださったというのは、初動として非常にスムーズだったと思います。会員数の増加はもちろん重要ですが、私たちが従来のフィジカルなTカードからモバイルVカードへの切り替えをお勧めするのは、やはり20年前から変わらない「ポイントのある暮らしを楽しんでほしい」という思想がベースにあります。

 フィジカルのカードだとポイント残高や、どこのお店でお得に貯まったり使ったりできるかということが、見た目で分かりませんよね。せっかくのポイントの楽しみ方が限定されてしまいます。一方、モバイルのアプリであれば、ユーザーひとり一人とコミュニケーションが取れて、ポイントが貯まっていく楽しさや、カスタマイズしたお得なクーポンや情報を提供することも可能です。こういったデジタルの体験価値に目をつけて、カードのモバイル化にいち早く取り組みました。

 アプリへの転換を促す一番分かりやすい仕掛けが、6月30日まで続いた「毎日ガチャ」です。毎日アプリでガチャが引けて、合計1億人にポイントがあたるというキャンペーンで、これによって毎日アプリを開いてくれる人が相当数いることが分かりました。こういうコミュニケーションは今後もとっていきたいです。

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