テレビCM新時代 #01Sponsored

CM効果は「指名検索」が最重要指標、ノバセル田部正樹氏に聞く「純粋想起」されるブランドのつくり方【新連載】

 膨大な費用や手間をかけて制作されるテレビCM。その市場は長年、大手広告会社と大企業が主導権を握り、優れたクリエイターが手がけるCMは時代を映す鏡でもあった。一方、CMの目的がビジネスの伸長やブランド力の増強だとしたら、その費用対効果は必ずしも明確化されてこなかったのが実情だ。そんな状況にメスをいれ、あらゆる企業がテレビCMに挑戦したり、真にビジネスに貢献するCMを模索・提案したりする動きも顕在化してきている。

 Agenda noteの本連載は、そんなテレビCMの新局面において、マーケターが目指すべき広告施策のあり方を考える。第1回は、Web広告のように高速で効果を検証しながら運用する運用型テレビCM事業のノバセル 代表取締役 田部正樹氏に取材。同氏がCMの効果検証において最も重視する「指名検索」について、親会社のラクスルで知名度ゼロから「純粋想起」を勝ち取っていった軌跡や、「指名検索」されるブランドをつくるためのポイントと戦略を聞いた。
 

コンバージョンレートに10倍の差


―― 田部さんは商品やサービスがWeb上で指名検索される状態を目指す「指名検索マーケティング」を提唱されています。なぜ指名検索をそこまで重視されるのですか。

 私は以前、ウェディング関連企業で働いていました。大半の消費者にとってウェディングは一生に何度もない行事である上に、他人と同じことをするのは敬遠される傾向があります。つまり、ターゲットが相当な熱量を持って主体的に選ぶ特殊なマーケットであり、口コミはあまり頼りになりません。選んでもらうためには、広告・宣伝活動が不可欠でした。

 さらにこの業界には、誰もが知るブライダル情報誌がありました。結婚を決めた時に「結婚式場」よりも誌名の方が検索されるという、純粋想起の状態です。ターゲットが集まってくるプラットフォームでもあるので、当時は私も、その雑誌に広告掲載していました。ブランドとして指名検索を勝ち取れば、関連企業がみんな集まる広告媒体になると同時に、ライバルの存在を消費者に忘れさせるほどの圧倒的優位に立つことができ、ビジネスはどんどん伸びていくのです。
 
ラクスル株式会社CMO /ノバセル株式会社 代表取締役社長
田部 正樹 氏

 1980年生まれ。中央大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。2014年8月にラクスルに入社。マーケティング部長を経て、2016年10月から現職に就任。ラクスルの成長を7億→210億(6年で30倍)を牽引したマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業「ノバセル」を立ち上げ、マーケティングの民主化をビジョンに5年で80億を超える成長を続けている。業界問わず成長を求める企業の経営×マーケティングのアドバイザー。経済産業省主催「始動」講師/メンター。

 しかし容易に想像できるように、それほど強力なブランドを確立するのは極めて難しいです。たとえ資金力にものを言わせてブランド認知を図ったとしても、その商品やサービスが真っ先に思い浮かべられる純粋想起は、必ずしも実現されません。

  そんな困難な純粋想起と指名検索を、知名度ゼロから獲得するまでに成長したスタートアップが、印刷のシェアリングプラットフォームを祖業とするラクスルです。従来、大手企業が独占し、多重下請けが構造化していた印刷市場において、ネットを通してユーザーと印刷会社をマッチングさせることで、安くて高品質なサービスを素早く提供でき、印刷会社も収益を安定化できるという画期的な仕組みを提案しました。創業当初は「印刷 安い」といった検索キーワードから顧客を少しずつ獲得していきましたが、あくまで「ラクスル」というブランド名での指名検索を目標に据えていました。

 さまざまな壁を乗り越えて、指名検索を獲得したラクスルでは、「チラシ 印刷」などのキーワード検索でサイトを訪問してくれるユーザーと、指名検索で到達してくれるユーザーとでは、コンバージョンレートに約10倍の差があります。総訪問者に占める指名検索の割合は年々増加しており、CPAは半減。指名検索には明らかに大きなメリットがあることが、数字でも立証されているのです。

―― 知名度ゼロの状態から指名検索を勝ち取るには、どんな戦略があったのでしょうか。

 指名検索を獲得する秘訣は以下の3点に集約されます。
(1) 勝てるフィールドを見つける
(2) 自社の強みや独自性を発見する
(3) 伝えたいメッセージを絞り込む

「勝てるフィールド」というのは「一点突破できるカテゴリ」です。ラクスルは2009年に設立し、2010年にサイト名を「印刷比較.com」から「ラクスル」としてリニューアルしました。当初は「ネット印刷ならラクスル」と謳っていましたが、同じ市場に売上高200億円以上の大企業が複数ある業界です。ラクスルは創業当初から比較的、順調に資金調達ができていましたが、売上規模からすると、消費者に選ばれるほどの優位には立てていませんでした。

 そこでまず、「印刷」に関する検索キーワードにどんなものがあるのかを調べ、「チラシ印刷」に行き着きました。7500億円規模の市場も持つフィールドであり、かつ、当時はまだ「チラシ印刷なら○○」という純粋想起は存在しませんでした。こうして「チラシ印刷ならラクスル」という、初期のメッセージが生まれたのです。

―― 競合がひしめく中、早い段階からフィールドを絞り込み、独自性あるメッセージを打ち出すことで純粋想起を狙ったのですね。指名検索はすぐに獲得できたのですか。

 いいえ。2013年3月から印刷・集客支援プラットフォーム「ラクスル」をスタートしたのですが、売上の実績(赤線)は右肩上がりではあるものの、計画(緑線)と大きく乖離してしまいました(下図)。資金調達してプロモーションに注力したにも関わらず、売上につながったかというと、そうは言えない状況が何カ月も続いたのです。指名検索など「夢のまた夢」でした。
  
提供:ノバセル

 この現実に直面したとき、私が気づいたのは「選ばれる理由がない」ということでした。印刷のネット通販では先行する競合企業がたくさんあり、どこも似たサービス内容・メッセージでした。ラクスルは先ほど申し上げたような画期的なビジネスモデルが特徴でしたが、印刷物が欲しい消費者にとっては、その過程はほぼ関係ありません。このままでは、指名検索など不可能で、事業成長は頭打ちします。

 そこで新たに開発したのが500円で名刺を届ける「ワンコイン名刺」のサービスでした。名刺は大手企業であれば、発注する業者が決まっているか、社内に専用の印刷機を持っています。しかしフリーランスや副業、プライベート、ショップカード、創業など、小規模でも名刺を新たにつくる市場ニーズは、時代の情勢も手伝って、至る所に眠っていました。今でこそ同様の名刺作成サービスは多々ありますが、当時はまだ、競合はほとんど手を出していない状態で、ラクスルは名刺というカテゴリで「無かった市場」を創造したわけです。

 その結果、「ネット印刷は怖いけれど500円なら試してみるか」というユーザーが流れ込みました。そして、少量から発注でき、安くて早くて高品質な印刷を実現するラクスルのサービスに満足いただき、次の受注にもつながっていきました。これによって売上を一気に加速でき、「広告費をかけなくても特定のカテゴリで消費者に刺さる商品があれば選ばれる」ということを体感したのです。

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