テレビCM新時代 #01Sponsored
CM効果は「指名検索」が最重要指標、ノバセル田部正樹氏に聞く「純粋想起」されるブランドのつくり方【新連載】
顧客とは誰か?
―― ワンコイン名刺もまた、「一点突破できるカテゴリ」だったのですね。その後、ラクスルは再び、新規顧客獲得が伸び悩む時期を迎えたと聞きました。どのように乗り越えたのでしょうか。
どんなビジネスでも踊り場を迎えることはあります。大事なのは、そこからいかに学びを得るかです。ラクスルの場合、停滞期にプロモーション活動をあらゆる方面から精査した結果、それまでB2BとB2C、個人事業主の全てを顧客としていたのを改め、LTV(顧客生涯価値)が高い「B2B向け」のネット印刷として、事業を再定義したのです。
さらに我々は、その顧客の中からロイヤルユーザーを抽出しヒアリングしました。他にも競合サービスがある中で、なぜラクスルを使い続けてくれるのか、を深掘りしたのです。
すると、驚くべきことが分かりました。2010年代当時、顧客となり得るターゲット層の間には「印刷屋は夜8時に閉まる」というかつての固定観念が根強く残っていて、「Webサイトは見られても、注文はできないはずだ」という思い込みがはびこっていたのです。夜の時間帯に発注をかければ、印刷物が素早く出来上がってビジネスもスピーディーに進めることができるのですが、その発想が顧客側にほとんどなかった。我々は「ネットなのだから24時間受付は当たり前」と思っていましたが、ユーザーからすると「当たり前」ではなく、大きな差別化要因となっていたのです。
この気づきをクリエイティブに反映し、24時間注文受付を前面的にアピールしました。サービス自体を大きく変革したわけではないのに、ターゲットと訴求ポイントを絞り込んだことで、再び成長路線に乗ることができたのです。
―― 顧客の声によって、自社でも気付かなかったサービスの独自性に気づき、踊り場を脱することができたのですね。
この経験から、以後のラクスルでは成長が鈍化する兆しが見えた時、顧客ヒアリングを実施するようにしています。このプロセスによって、課題を浮き彫りにし、状況が切迫する前に手を打つことで成長し続けられるのです。また、ヒアリングの際は比較対象となったサービスやブランドを必ず聞くようにしています。これによって、競合は誰なのかが明確化されます。
競合が誰かというのは、顧客に聞かなくとも自ずと分かると思われるかもしれません。しかし、競合は意外な場所にいることもあります。ラクスルの場合、他のネット印刷サービスが競合だと考えがちですが、視野を少し広げると、提携する全国の印刷屋さん、オフィスのプリンターも競合になり得ます。ペーパーレスが推奨される現代という時代そのものも競合かもしれません。競合の姿がきちんと見えてくれば、「相手がやられたら一番嫌なこと」「自社にはできて競合にはできないこと」を考え、勝ち筋を立てていくことができます。つまり、顧客の声はビジネスの戦略策定にとって必須となる競合分析に、大いに活用できるのです。
ただ、ここで最も大事なのは、耳を傾けるべき顧客を見誤らないということです。その顧客とは、企業にとって重要な収益をもたらしてくれるロイヤル顧客です。サービスへの不満を持つ人や、収益に貢献してくれていない人のニーズを聞いて、サービスを変えたり、新たな商品を開発したりする他社事例もありますが、成功した例を私はほとんど見たことがありません。収益を生み出さない8割の顧客よりも、収益をもたらしくれる2割のロイヤルユーザーを大事にすべきです。彼らこそ、売上の80%をつくってくれるお客さまであり、拡大を狙える層なのです。そして彼らの中には、企業が気づいていないニーズやインサイトが眠っていて、そこを深く理解することが、成長につながるヒントをもたらしてくれることが往々にしてあります。