TOP PLAYER INTERVIEW #72

岩井琢磨氏、奥谷孝司氏らの顧客時間がMBOで独立 「ネットワーク組織によるCX デザイン」で目指す進化とは

 

顧客体験を創出するたった3つの資源


―― 全員が自律的かつ多様性あるプロフェッショナルというネットワークで、どのように「ひとつのプロジェクト」をまとめていくのですか。

風間 まず全員が目指すべきことを共有していることが大きいと思います。それは社名に表れていて、我々は「顧客の時間をデザインする」ネットワークであるということです。そのため全メンバーひとり残らず、「顧客基点」の思考に立っています。もちろんプロジェクトはクライアントと行いますが、顧客時間のメンバーがその先に見据えているのは「クライアントの顧客」です。その「顧客のためにどんな体験を実現するのか」という視座が全員共通しているので、根本的なベクトルが崩れたりズレたりすることは絶対にないんですよね。

岩井 そのネットワークのメンバーが連携して稼働するための要諦は、3つしかありません。ひとつ目は、「CXデザインのメソドロジー」です。メンバーが有するメソドロジーは、メンバー自身に帰属しています。顧客時間はそれらのメソドロジーを体系化して編集し、事業システム総体をデザインできるものにまとめています。この体系化されたメソドロジーが、またメンバーに還流し、実践で生かされ磨かれていく、という循環を生んでいます。

2つ目は、「マネジメント・システム」です。プロジェクトに伴う法的な手続きや、情報システムやコミュニケーションツールなどの設置・ルール設定・マネジメント体制は、ネットワークのメンバーが共創するためのインフラです。これらを整備統括し、優秀なデスク担当が経験を積み運用しています。

3つ目は「プロジェクト・デザイン」です。プロジェクトの課題を解釈し、クライアントとメンバーが共に向き合うべき問い・チーム・プロセスをデザインするスキルセットです。顧客時間の資源は、むしろこの3つしかないと言っていいと思っています。

―― MBOを経て、顧客時間が目指すところを教えてください。

岩井 顧客時間の最大の資産は、多様性あるプロフェッショナルによるネットワークそのものです。この「CX デザイン ネットワーク」の純度を高めていきたいと思っています。

まずCX デザインの観点から言えば、既に業界各社では、事業にデジタルをどう取り入れるかという局面を超え、顧客データ基盤の活用による業界構造変化や、競争変化への対応へと進んでいます。企業の競争環境が複雑化し、将来の不確実性も高まっていきますが、唯一変わらないのは「全ての事業が顧客のためにある」ということです。したがって「CX デザインから事業変革を導く」というアプローチは普遍であり、これからより重要になります。メンバーと共に、そのメソドロジーをさらに磨いていきたいと思っています。

つぎに「ネットワーク」の観点から言えば、社会全体でのキャリアの多様化が更に進むと思います。しかし、社員に副業を認める企業が増える一方で、外部からの副業人材の活用は一部の領域に限られています。これは人口減少が進む日本では、大きな社会課題です。人材は枯渇しているのではなく、埋蔵されているのです。高度な専門性を持つ外部人材を、経営レベルの課題に活用できる仕組みがあれば、企業の課題解決を加速させることができます。ネットワーク組織の体系化は、社会課題そのものだと考えており、その可能性をさらに追求していきたいと思っています。

風間 現代はデジタルの力によって、戦略立案にせよ事業組織にせよ、すべてを顧客基点に立ち戻ることが可能になっています。DXを経て、あらためて顧客基点のマーケティング思考の重要性と、それを高いレベルでスピーディーに構想・設計・開発できるネットワーク組織の可能性が高まっていると感じます。「事業会社には多様な外部知見との接続を、メンバーには自分のスキル活用やキャリア向上のステージを」。その双方を繋ぐのが、ネットワーク組織という仕組みです。社会・企業・人材という3つの側面において、ネットワーク組織が貢献できることは大きいと思います。

奥谷 デジタルの時代とは、顧客の時代です。企業経営のすべてを、「顧客を基点に考えていく」時代になっています。「顧客時間」という社名は、博報堂 取締役専務執行役員から博報堂プロダクツ 代表取締役を経て大広の副社長を務められた、安藤輝彦さんの命名なんです。最初に聞いた時は、「デジタルを背景とする会社なのに漢字4文字!?」と思いました(笑)。

しかし直後に、「デジタルは本質ではなく、顧客の時間をデザインすることこそがこれからの戦略の本質。そのことを見抜いた素晴らしい命名だ」と思いました。

MBOを経てCX デザイン ネットワークをさらに充実させ、そこから共創される「新しい顧客時間のデザイン」を、一層進めていきたいですね。

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