顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #02

「1位宝塚、2位ヨドバシ」顧客満足を高める鍵はバラツキ抑制、トラップにもご用心 【青山学院大学 小野譲司】

 

CS推進のトラップ


 自社ブランドのCSIが低いという結果を見て、貴方ならどのような打ち手、すなわち、スコアを高くする対策を講じるだろうか。

 多くの人の問題意識は「どうやってスコアを上げるか」「ライバル企業を上回るにはどのような打ち手が必要か」に向けられる。たとえば、製品・サービスの不満点や問題点を洗い出し、着手しやすい問題を解決することを当面の優先課題とする。目に見える問題を解決できたのなら、新しいサービスや機能を追加して顧客価値の差別化と強化を図るだろう。低価格や割引などを伴ったコストパフォーマンスの良さを顧客に訴求する対策もある。これらは、品質・価値を強化することを目的とした典型的なCS推進の対策であり、その多くは現場仕事に関わる意思決定や活動に向けられがちである。

 こうした現場の努力は、意図せずに望ましい結果に向かわないリスクをはらんでいる。なぜなら、バラツキを減らしながら品質・価値を強化する方向へベクトルを向けないかぎり、効果が現れない可能性が高いからである。むしろ、現場主導の品質・価値を強化する活動は、効果が現れずに空回りするリスクさえある。拠点間のオペレーションのバラツキは一義的には現場活動に起因しているが、背景に地理的な市場拡大や顧客ターゲットの拡大といった経営判断があるとすれば、それは現場だけで解決する問題ではない。

 加えて、顧客満足度調査で他社と比較して「弱み」と思われる劣位点がある場合、それをすべて埋めようとする取り組みも考えられるが、そうした努力は必ずしもゴールに向かうとはかぎらない。ライバル企業も同じような顧客満足度調査を実施し、同じような問題認識のもとで改善活動を行うかもしれない。すると、自社もライバルも似たような製品・サービスに収斂して、小さな差をめぐって同質的な競争をすることになる。結果的に顧客にとって不満はないが、特徴のないサービスになりかねない。これもCS推進が陥りやすいもうひとつのトラップである。

 顧客の不満点を見つけたからといって、何から何まで改善すれば良いとは限らない。何をやり、何をやらないかを見極め、顧客にどのような価値や体験を提供するかは、ブランドのコンセプトに関わる問題であり、それを最終的に決めるのは、経営者や企画マネジャーといったマネジメントの仕事である。そうした観点で再び図をみると、左上の領域に、コンセプトやターゲットを特化したブランドが多く存在することの意味について理解が深まる。
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