「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #01

ユニクロの品質の高さを伝えたキャンペーンから紐解くグローバルブランディングの成功法則【I&CO APAC高宮範有氏】

 ユニクロのAIチャットボット 「UNIQLO IQ」や世界中の着こなし・コーディネート情報を検索できる「StyleHint」のコンセプト・開発・UXデザインや、P&G パンテーンのキャンペーン「#この髪どうしてダメですか」などを手掛けてきた高宮範有氏。I&COの東京オフィスを2019年の開設時からリードし、2024年4月にI&CO APACの代表に就任した高宮氏が、I&CO創業から8年で培った実績と、アジア各国のスタートアップ約250社と情報交換する中で見えてきた国境を越えるブランディングに大切なことを解き明かしていく新連載「『迷ったら、削る』グローバル戦略の描き方」がスタートする。

 第1回は、日本企業が海外展開する上での心構えと、ユニクロが2022年に展開したキャンペーン「Time Tells a Story」をひもとき、「ノンバーバル」「ワンメッセージ」の大切さを語る。
 

日本のブランドが海外で勝負するときの難しさ


 2024年4月、シンガポールを拠点にI&CO APACを設立しました。アジアを中心にさまざまなスタートアップ企業とコミュニケーションする中で、日本市場がいわば壁に囲まれた独特な市場であることを再認識しました。どの国にも独特の文化やビジネス慣習はありますが、特に日本という市場においては、そのコンテキストがブランドコミュニケーションや製品開発に強く反映されます。
 
 
I&CO APAC 代表(Head / Creative Director)
高宮 範有 氏

 I&CO APAC代表。Delphys Inc.、PARTYを経て、2019年7月にI&CO Tokyoを立ち上げる。新規事業開発とそのブランディング、体験設計を得意とする。これまでに「UNIQLO IQ」「StyleHint」のコンセプト・開発・UXデザインをはじめ、「Mercari Inc. 上場時のコーポレートブランディング」「P&G PANTENE#この髪どうしてダメですか」などを手掛ける。あわせて、スタートアップの事業拡大を数多く担当し、広報戦略立案にも携わる。クリエイティブ集団 PARTYの社外パートナー、TrambellirのCDO(Chief Design Officer)を兼任。

 コミュニケーションにおいても、日本の生活習慣やカルチャーを前提とした施策が反響を呼ぶことが多く、製品開発においてもさまざまな情報を盛り込んだわかりやすいパッケージや、日本で暮らすユーザーの細かなニーズに合わせた機能が好まれる傾向にあります。もちろんこうした配慮は、ユーザーにブランドを好きになってもらい、理解してもらい、購入してもらうために必要な打ち手のひとつです。

 しかし、そのような日本に最適化したプロダクトやサービスをそのまま海外市場に持ち込もうとすると、それらの細かな配慮がむしろ障壁となる場合があります。日本市場に配慮したものは日本市場のみに特化した「尖ったもの」になってしまい、海外市場のユーザーが入りこむ余白を狭めてしまうことにもつながるからです。この課題を理解している企業やブランドも多く、だからこそ海外展開のためのリブランディングやプロダクト開発に取り組むわけですが、実際に課題を乗り越えることができているケースはまだ多くはありません。

 そこで、本連載では、日本のブランドが海外展開でもつべき3つの視点をお伝えします。
 
  1. ノンバーバル、ワンメッセージ
  2. 「グローバルに届く」コンテキスト
  3. 顧客を理解する

 第1回で、お伝えするひとつ目のポイントは、「ノンバーバル」「ワンメッセージ」です。ノンバーバルとは「言語に頼らないコミュニケーション」で、ワンメッセージは文字通り、「伝えたいことをひとつのシンプルなメッセージに落とし込むこと」です。その事例として、ユニクロが2022年に展開した「Time Tells a Story」キャンペーンを紹介します。

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