「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #01
ユニクロの品質の高さを伝えたキャンペーンから紐解くグローバルブランディングの成功法則【I&CO APAC高宮範有氏】
ユニクロの強み「ノンバーバル」「ワンメッセージ」で伝えた「Time Tells a Story」
いまでは「ユニクロ」は手頃なだけでなく長く使える品質の高さも評価され、日本だけに留まらずグローバルでもよく知られたブランドのひとつです。ジーンズやシャツなど、日常的に高頻度で着るものこそユニクロを選ぶ、という人も多いのではないでしょうか。ぼくも毎日着ています。しかし、欧米などではこのイメージを必ずしも共有できておらず、数あるファストファッションブランドのひとつと認識され、品質の良さを想起してもらうには至っていないという課題がありました。
このイメージを覆し「ユニクロ=LifeWear」というイメージを日本以外の国でも浸透させることを狙ったキャンペーンが「Time Tells a Story」です。さまざまな人生を歩む人がユニクロのプロダクトを身に纏い、それぞれ過ごした時間の積み重ねをドキュメンタリー的に追いかけながら「Time Tells a Story」というワンメッセージを伝えています。
たとえば、ブルックリンで都市農業に従事する女性が、土や野菜と向き合う様子に添えられた「120」や「205」という数字。これらはYemiさんが食べ物を提供してきたコミュニティの数であり、ファームのエコシステムで育てる魚の数であると同時に、ユニクロのリネンシャツが仕事着として着用されてきた時間を表す数字でもあります。
UNIQLO PRESENTS: Time Tells A Story with Yemi
ユニクロの「Time Tells a Story」ではタイムレスに愛用が可能なエッセンシャルアイテムを、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が着こなす様子を紹介するミニドキュメンタリーシリーズを制作
ユニクロは、これまでもその品質や機能、生産の過程を店頭やプロモーションなどのコミュニケーション活動を通じて、それぞれの市場の顧客に伝えてきました。
「Time Tells a Story」では、それらに加えて、いわば一点突破でユニクロの強みを端的に伝える手法をとっています。言葉を駆使して説明するのではなく、黙々と自己研鑽を続ける姿にユニクロのプロダクトを重ねることで、シンプルで力強いメッセージが成立しています。
「何かを成し遂げるにはそれ相応の努力と時間が必要である。プロである彼らが自分のスキルや仕事のために費やした時間を語り、そこに長年愛用されているユニクロのアイテムが登場する」。
トレンドを超えて彼らの時間に寄り添う存在としてアイテムを見せたこのムービーは、オンラインや店頭で活用され、欧米でのユニクロに対する印象を変えることに寄与する結果となりました。
ブランドやプロダクト、サービスの強みを伝える手法はシンプルなほどパワフルになります。また、ノンバーバルで理解できることのメリットとして、伝達速度が速くなり効率的になるという点も挙げられます。
海外展開において重要なポイントのひとつ目は、「ノンバーバル」「ワンメッセージ」を意識することによって、伝えたいポイントが自然と伝わっていく状態をつくり出すことです。
次回は、I&COが沖縄県と協業したプロダクト開発領域での事例をもとに、海外進出に必要なポイントの2つ目のポイント「『グローバルに届く』コンテキスト」を深掘っていきます。
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