「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #02
沖縄の泡盛を「蒸留酒」としてポジショニングしたグローバルでの販売戦略の裏側【I&CO APAC高宮範有氏】
商品が独り歩きしていける強さを付加する
今回、ラベルのデザインにこだわったのには理由があります。 国内と最も違うのは、海外には常駐の販売スタッフを置くことができない点です。
国内であれば、店舗があり、お客様から質問があれば、受け答えできるスタッフが居ます。また、海外で認知の低い泡盛が、いきなり店舗の棚取りに勝てる見込みも高くありません。恒常的に販売できる棚を確保することは国内でも難しい課題です。
実際、泡盛は海外だと「日本のお酒コーナー」に置かれていて、日本各地のお酒どうしで棚取りを競わなければならない状況でした。「日本のお酒」が置かれている棚の面積はなかなか増えないので、どうしても日本酒や焼酎と戦わなければいけません。しかし、泡盛を世界で販売していくためには、日本のブランド同士で競うのではなく、ポジションを変える必要があると考えました。もっと広いところ、つまり「蒸留酒」にポジショニングしてあげるべきなんです。
そこで、小売店ではなくバーやレストランの販売促進に力を入れました。棚の面を取ろうとすると、ある程度の量を仕入れてもらう必要がありますが、バーに導入するのは極端な話、一本からでもいいわけです。最優先で勧めてもらえなくてもいい。どのバーにもこの泡盛が並んでいる状態を地道に増やしていき、まずは見覚えのあるラベル(名前)だなと思ってもらうだけでも成功だと考えました。飲食店の場合は、物販の小売店と違って飲む行為とセットになるということも強みです。
もちろんバーやレストランのスタッフが伝道師になってくれればベストですが、その前段階として、バーカウンターなどに並んだときに、商品自体が自らをプレゼンテーションする必要があります。つまり、プロダクトとしての佇まいやラベルなど、デザインの力で「どんな商品か?」を伝えられ訴求力が強く求められます。
そこで今回のプロダクトは、ウイスキーの文法に習って熟成年数の表示を印象的に取り入れ、日本の商品とわかるように商品名は英語だけではなく漢字も表記しました。海外用だから英字にしてしまうのではなく、「日本の・熟成した・蒸留酒」が一目で伝わるように、お客様からマスターに「そのお酒は何?」と声を掛けたくなるような仕掛けをつくりました。そんな独り歩きできる“強さ”を付加したのです。
その影響もありミシュラン星付きのレストランに置いてもらえたり、バーでは専用メニューやカクテルが開発されるケースも出てきています。目指していた文脈でメディアにも取り上げていただきました。
小売店の棚を取る、からスタートするのではなく、まず「飲む人」を増やす。飲む人が増えて買いたい人が増えれば、棚が取れるようになる。そういう循環をつくりたいと思っています。
以上、泡盛を例に、グローバルに届くコンテキストを紐解いてみました。次回はそのコンテキストを把握するために、いかに現地の顧客理解をするかという話をしたいと思います。
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