テレビCM新時代 #02

「カンヌライオンズ=ビジネス評価せず」は誤解 アワードの意義と広がるクリエイティビティ【佐藤達郎】

 

クリエイティビティと評価軸の多様化


 このように、商業的効果を度外視していることは全くないにせよ、その前提として優れたクリエイティビティがあるというスタンス故に、カンヌをはじめとする広告アワードが「広告会社のクリエイター同志が褒め合う賞」などと批判されることがあります。

 日本では、広告クリエイティブをつくる広告会社の人を「クリエイター」と呼ぶことが多いですが、英語圏では一般に広告会社のクリエイティブ部門の人自体をクリエイティブと呼び、「クリエイター」とはあまり呼びません。また、カンヌライオンズは2011年に正式名称から「広告」が外され、現在の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」になりましたが、ここでいう「クリエイティビティ」は広告における表現というよりも、従来のやり方を壊すためのスキルである、というのが私なりの定義です。ここで言う「クリエイティビティ」に関わるのは、CM制作をするいわゆる「クリエイター」だけではなく、新規ビジネス創出を担当する人なども含まれるわけです。

 実際、クリエイティビティの射程は広がっており、それがカンヌの多面化に反映されています。2011年には13部門だったのが2024年には30部門まで急増しており、ビジネス転換や新規事業を評価する「Creative Business Transformation」という部門まで創設されました。かつては「広告会社のクリエイター」が大半だった審査員にも、プラットフォーム系やコンサルタント、演出家、プロデューサーといった人々が加わり、訪れるゲストの顔ぶれも企業の新規事業担当者が増え、昨年と今年は日本の総合商社の社員の姿もありました。彼らはカンヌで表彰されるクリエイティビティの中に、新たなビジネスのヒントを見出すことや、そこに集う多様な職種の人々とネットワークを進めることを目的に訪れているのです。
  
撮影・提供:佐藤達郎

 カンヌのような国際広告アワードが多面化・多様化しているからこそ、敢えて評価軸を絞ったアワードも登場しています。日本ではそれほどメジャーではありませんが、世界的によく知られているのは1968年に米国で創設された「エフィー(Effie)賞」です。1954年創設のカンヌライオンズに劣らず歴史があり、話題性やメディアで取り上げられたかどうかは関係なく、商業的目的に対して効果があったかどうかが厳格に評価されます。そのほかにも、カンヌの「Creative Effectiveness」など、「エフィー賞」に該当するような広告賞はいろいろと存在しています。
  
出典:エフィー賞公式サイト

 近年はテクノロジーの発展やノウハウの成熟から、CM効果測定の精度が高まり、それを活用した施策が成果を出していますから、ビジネス貢献にフォーカスしたアワードが増えるのも必然的な動きと言えるでしょう。

 ただ、ここで注意していただきたいのは、短期的な指標だけを追い求めると、中長期的にブランド価値が先細り、その結果、広告コストが非効率化していくリスクがあるということです。同じ表現でも、「このブランドいいよね」というブランド力の下支えがあるかないかで、効果に差が現れます。私もカンヌ以外の著名なアワードで、広告効果を評価する部門の審査に関わったことがあるのですが、正直、表現力という面では評価できないものも多かったです。この広告クリエイティブだけで、それほどの商業的効果が出るとは信じ難く、必ず営業や流通の努力など、他の要因が大きかったはずだと思いました。

 冒頭にも申し上げた通り、広告の効果や因果関係を測定するのは至難の業です。まして、ブランド価値というものは目に見えにくく、評価が難しい。だからと言って、短期的な指標だけを追うのではなく、ブランド価値の向上という中長期的な指標との両輪で、広告施策の効果を判断していくべきでしょう。

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