CATCH THE RISING STAR #17

花王の若きグローバルマーケターが追求する生理用品ロリエのアジア展開と現地コミュニケーション【瀧柳七海氏】

 

文化の違い、現地の実情を理解


―― タイとマレーシアの市場で、ロリエや花王の商品はどのような状況ですか。

 日本といちばん違うのは、まだまだシェアが小さいことですね。日本ではロリエは生理商品としてお取扱店数、品揃え、支持やシェアもトップクラスで、全国、どのスーパーやドラッグストアに行っても基本的に商品があるという状態ですが、タイやマレーシアではこれから伸ばしていく状況です。

 だからこそすごく面白いなと思っています。日本だと追われる立場として「シェアを奪われるかもしれない」という想定と危機感が常に必要です。海外事業はむしろ「ポテンシャルしかない」と前向きに捉えて、楽しく仕事に向き合っています。

―― 具体的な業務についてお聞かせください。

 現地法人でマーケティングを行う際の指針となる戦略を立案します。ヘッドクオーターとして大きな戦略を立て、戦略実現のための商品開発やコミュニケーションなどの方針を検討し、それを現地法人がSNSでのキャンペーンなど、具体的なマーケティング活動に落とし込んでいくのが基本的な流れです。

 現地とは基本的に毎日、オンラインミーティングやメールでやりとりしています。大きな戦略を固めたり、対面で議論した方が良かったりする場合は、現地に出張して合意形成を図ることもあります。

 私もこの担当になってから驚いたのですが、個々のマーケティング施策の立案・実行はもちろんのこと、大きな戦略を立てたり、現地法人の収支や事業管理、PDCAを回したりといったマネジメントの比重が高いです。もちろん、ひとりで全てを決めるわけではありませんが、自分が立てたロリエの戦略やマネジメントの差配が、タイやマレーシアでのシェアに大きく響くと思うと、大きな裁量権を持たせてもらっていると、緊張感を持って臨んでいます。

―― 扱っているのが生理用品ということで、タイやマレーシアの月経事情の日本との違いや、戦略を考える上で心がけていることはありますか。

 月経に関する考え方や習慣は、国や地域や宗教によって大きく違います。東南アジアは月経をタブー視する風潮が今でも強く、たとえばマレーシアでは、ナプキンを洗う習慣があります。繰り返し使う布ナプキンではなく、ロリエなど紙製の使い捨てナプキンを、捨てる前にわざわざ洗うのです。宗教上、血を捨てるのは良くないとされているためで、洗って綺麗にしてから捨てるわけです。現地調査から初めてこのことを知った時は、とても驚きました。そのほかにも、日本とは大きく異なるトイレ事情や暑さといった、勘案すべきことはたくさんあります。

―― 課題を感じることはありますか。

 現地法人とは物理的な距離があるので、こちらの意図が適切に伝わらなかったり、想定通りにプロジェクトが進んでいなかったりすると、正直、戸惑ってしまうこともあります。けれど、現地には現地の事情がありますし、私自身も、デジタルの知見はあっても受注管理や工場での生産、現地での販売といったことが理解不足の面があります。現地法人の行動やアウトプットに対して、「どうしてなのか」ということを極力、腹落ちするまで理解して、それを踏まえた提案ができるよう心がけています。

 この考え方には、私自身のバックグラウンドや、留学経験が影響していると思います。日本と台湾のハーフである私は、幼い頃から母方の親戚がいる台湾に行ったりすることで、異文化に触れることに興味を抱いてきました。留学では、自分とは違う価値観や背景を持つ人と交流する機会がすごく多かったので、当たり前と思っていたことが当たり前じゃないし、逆に「これは常識と違うんじゃないか」と思うことでも「いいじゃん!」と前向きに捉えてもらえる経験をしました。それぞれの異なる考えを一度、受け止めるというのが大事なんだなということを実感したので、現地法人とのコミュニケーションにおいても、いわゆる「心理的安全性」を確保して、「この人ならフランクに話しても大丈夫」と思ってもらえるようでありたいです。

 実際、良いのか悪いのか分かりませんが、現地法人からは結構、思いがけないリクエストや意見が来ることもあって。動画内に、緑色の猫やスケートボードに乗りながら空中に浮いている女優さんが登場したり、独創的な見た目のオリジナルマスコットの提案などが来たりもします(笑)。でも、それをきっかけに現地法人が何をしたいと考えているかを深読みすることで、新しい提案ができるかもしれませんし、引き続き、密にコミュニケーションを取っていきたいと思います。

 現地のニーズに合った商品開発や、パッケージやコミュニケーション施策などのカスタマイズは必要ですが、一方で、各国で共通してどのように見られたいかといった方針や、ブランドとして絶対に守りたい世界観があります。ですので、グローバル全体で、ブランドをどう育てていくか、という議論を今まさに、今まで以上にしていますし、その重要性を感じています。現地法人では比較的、ブランドよりも「現地で売れるか」を重視する傾向がありますが、それに対して「ブランドのパワーがいかに大切か」といったことを、彼らに理解してもらえるように伝えていくことも課題です。カスタマイズには当然、コストもかかりますから、効率性も意識しなければなりません。

―― 今後の目標を教えてください。

 東南アジアをはじめ、グローバル市場では急激にデジタル化が進んでいますが、それらのデジタルデータをフル活用して、適切にPDCAを回せているかというと、花王全体では不十分な部分があると思っています。自分がこれまでに培ってきたデータ分析のスキルは、まだまだ生かせる余地があると思っているので、将来的に他のブランドや現地法人のマーケティングにもインストールしていきたいです。

 より直近の目標としては、グローバルマーケターとして現地に飛び込んで、現地の実情を肌感で理解できるマーケターになりたいです。

 たとえば先般、初めて出張でマレーシアに行きましたが、現地でしか得られない驚きがたくさんありました。イスラム教徒の方はヒジャブを被り、ゆったりしたシルエットの服装で過ごすことが多いですが、中華系の人は全く違うファッショントレンドを持っていたりします。日本もそうですが、特に女性を取り巻く価値観や就労状況、経済環境などは急速に変わってきているので、データからそういった変化やインサイトを見つけて、現地視察やヒアリングによって肌で理解し、戦略に落とし込んでいきたいです。

 海外経験で得た視点やノウハウは、日本にも還元できると思います。これから人口が縮小し、品質の均一化が進む日本においても、ロイヤルティーの高いお客さまを獲得し、ブランドを好きになっていただける施策に生かしていきたいです。

―― 本日はありがとうございました。
「最近はあまり行けていませんが、休日はバイクに乗って走るのが息抜きです」
 

【上司の視点】ビジネス視点を併せ持つ真のグローバルマーケターに

 
稲尾 裕司 氏
花王 ハイジーン&リビングケア事業部門 サニタリー事業部 ロリエ海外 ブランドマネージャー

 瀧柳さんは高いコミュニケーション能力を生かし、現地メンバーとスムーズに連携しながらデジタルマーケティングの知識と経験を活用し、チームに貢献してくれています。最近では、タイ現地法人の社長、マーケティング部長に向けて、具体的なデジタルマーケティングPDCAの仕組み提案を行い、この秋からのテスト運用が決定しました。現地法人からの期待も高まっています。

 今後は、現場にどんどん飛び込んでいき、アジア各国の文化や生活者と触れ合いながら、グローバル視点でロリエブランドの育成をリードすることを期待しています。

 花王のグローバルチームでは、年齢に関係なく、熱意と成長意欲を持つ人にチャンスが与えられます。新しいチャレンジを積極的に提案、実行しながら、マーケティングだけでなく、ビジネス視点も学び、将来的には、アジアだけでなく、欧米やグローバルサウスでも活躍できる、真のグローバル人材を目指して欲しいと願っています。
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