グローバルマーケター進化論 #02後編
「Cook Do」を復活させた元味の素・中島広数氏が語る海外進出を担う人材に必須のスキルセット
アジア市場はデジタル必須
―― 「Cook Do」の担当を5年務め、「きょうの大皿」を含めた大幅な事業拡大を成功させた後、2018年に独立して、現在はコンサルティングや人材育成を手掛けていらっしゃいます。日本市場が縮小に向かう中、海外進出を目指す企業が心がけるべきことや、必要なスキルは何でしょうか。
日本の人口減少と市場縮小が避けられない中、海外進出を考える企業は少なくありません。しかし、日本への悲観論から海外に進出することを、私はあまりよく思いません。そもそも、日本で成功していない商品は海外ではまず売れませんから。逆に、経済成長が著しく、急激なデジタルシフトが進むアジア市場においては、「日本で売れている」という情報は一気に拡散し、ヒットにつながる強い可能性を秘めています。
中島 広数 氏
freebee代表取締役/元味の素マーケティングマネージャー
東京外語大学外国語学部中国語学科卒業後、1998年から2018年まで味の素の海外事業・海外営業・国内外マーケティングに従事。うち4年間は中国、2年間はタイに駐在。2011年から5年間、「Cook Do」事業担当を務め、「Cook Do きょうの大皿」の事業開発を含めたリブランディングによる大幅事業拡大を手がけた。
2018年に事業コンサルティング・新事業/新商品開発・マーケター人材育成を主業務とするfreebeeを創業、代表取締役に就任。現在7期目。亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究所非常勤講師、香港貿易発展局アドバイザー、本田事務所マーケティングディレクター、一般財団法人シャンティハウス評議員長等、複数の組織の要職を兼任。日本語・英語・中国語・広東語の4ヶ国語話者。2024年2月「グローバルで通用する『日本式』マーケティング」(日本能率協会マネジメントセンター)を刊行。
freebee代表取締役/元味の素マーケティングマネージャー
東京外語大学外国語学部中国語学科卒業後、1998年から2018年まで味の素の海外事業・海外営業・国内外マーケティングに従事。うち4年間は中国、2年間はタイに駐在。2011年から5年間、「Cook Do」事業担当を務め、「Cook Do きょうの大皿」の事業開発を含めたリブランディングによる大幅事業拡大を手がけた。
2018年に事業コンサルティング・新事業/新商品開発・マーケター人材育成を主業務とするfreebeeを創業、代表取締役に就任。現在7期目。亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究所非常勤講師、香港貿易発展局アドバイザー、本田事務所マーケティングディレクター、一般財団法人シャンティハウス評議員長等、複数の組織の要職を兼任。日本語・英語・中国語・広東語の4ヶ国語話者。2024年2月「グローバルで通用する『日本式』マーケティング」(日本能率協会マネジメントセンター)を刊行。
そのため、私がグローバルマーケティングを始めたばかりの企業にまずおすすめするのは、日本国内で売れている商品を海外で売るという方法です。その際、前編でお話ししたような、柔軟性のある商品開発力やバリューチェーンマネジメント、社会的価値といった日本の「ユニークネス」は、大きな強みになります。
さらに、これからのアジア市場で必須になるのがデジタルスキルです。
アジアの中で依然として低所得国であるカンボジアでも、デジタル化は非常に進んでいます。家に固定電話はないけれど、皆スマートフォンを持っていて、それでお金をやりとりできるモバイル送金サービスが広まっています。フィリピンもFacebookの普及率が人口の9割程度をカバーしていると言われます。Facebook無料SIMというものがあって、それを使うとFacebook閲覧時のネット利用料がかからないため、何かを調べるのにも検索エンジンではなくFacebookで調べるのだそうです。
中国もSNSを利用したマーケティングが日本よりはるかに進んでいます。現在の中国における「勝ちパターン」は、ユニークなポジショニングを確立した上で、TikTokなどデジタルコミュニケーションツールを積極活用し、オフラインの量販店とECへとWチャネルの実売へと着実につなげることです。
―― アジア市場で勝ち抜くにはデジタル活用が不可欠なのですね。
そのためにもデジタルネイティブであり、SNSマーケティングや営業の知識をある程度身につけた若手マーケターをどんどん海外に送り出し、現地のデジタルマーケティングを実践してもらうのが、企業の海外進出においても、人材育成法としても有効だと思います。
ただ注意してほしいのは、繰り返し強調しているように、マーケティングはバリューチェーン全体を創造し、マネジメントすることです。デジタル運用さえできていればいいという考え方にはならないでほしいです。
また、ひとりのカリスマが独断専行するのではなく、「衆知」を大切にするのは日本企業の良さでもありますが、グローバルでは決断の遅れにもつながります。モタモタしていると、特に中国においてはローカル企業に先にやられてしまい、競争優位性が失われてしまうので、中国市場への展開を考える企業は、あまり迷っている暇はないでしょう。
——海外市場で奮闘してきた経験から、日本のマーケターに伝えたいことはありますか。
私が駐在した頃と比べると、著しい経済成長やデジタルシフトなど、アジア市場の環境も劇的に変わってきてはいますが、一方で、グローバルマーケターに求められる態度やスキル自体はそれほど変わっていないと思います。つまり、日本は世界的には非標準だと認識し、進出国の文化・言語・生活習慣を理解する努力を欠かさないということです。
中国駐在の頃、日本から来たビジネスパーソンが中国人には分からないと思って、居酒屋で中国人の悪口を日本語でしゃべっているのをよく耳にしましたが、そういう心構えは表に現れます。現地語を習得する努力をすることで対人力を磨き、相手国の人から一目置かれるようなマーケティングのスキルやノウハウを身につけてください。そして現地のリーダーとしてバリューチェーン全体を俯瞰してマネジメントし、日本ならではの「衆知」を集めることで、新しい価値をつくれるかどうかが、グローバルマーケティングの成否を決めます。
私としては、こういった真髄や実務経験を、海外での活躍を目指す後輩マーケターに伝え、自律的なグローバルマーケターの育成に力を注ぐとともに、マーケターとして死ぬまでに200のプロジェクトを実現することを目標として、新たな社会価値の創造に取り組んでいきたいです。
―― 貴重なお話をありがとうございました。
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