「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #04

海外の広告・PR賞を席巻、味の素「冷凍餃子フライパンチャレンジ」が評価された3つの理由

 

チームの即応性:クリエイティビティが発揮できる体制


 3つ目の視点として、「チームとしての対応力」があります。このプロジェクトへの評価は、味の素冷凍食品チームの即応性とクリエイティビティの賜物でもあります。SNS上の投稿に対してすぐに返信し、数週間後にはフライパン募集を開始、数カ月後には企業からの感謝の想いを新聞広告で表明し、さらに半年後には新商品の発表につなげるというスピード感は、社内外が一体となったチームだったからこそ成し遂げられたものです。

 この即応性は、現代のコミュニケーションにおいて企業に求められる重要な資質のひとつです。しかし、スピード感は一朝一夕で身につくものではありません。普段から「永久改良」を続けている企業文化があってこそ、社内外で連携して推進する体制があってこその迅速な対応といえます。海外のThe 2024 Asia-Pacific Innovation SABRE AwardsのReal Time Engagement部門など、合計18もの海外賞を受賞したことは、この点が高く評価された結果でしょう。
 
2023年10月13日の日本経済新聞に、消費者に感謝を伝える新聞広告を掲載

 企業にとって、消費者からの問題提起 やネガティブなフィードバックは必ずあるものです。ただそれらが起きたときに「どんな対応が出来るのか?」は、多くの企業やブランドにとって常に準備しておかなければいけない問いかけです。企業として「どうありたいか?」とともに、消費者から「どう見られているか?」の両側から検討を進める必要があります。
 

企業の本質に根差した取り組み


 ブランドの信頼性と一貫性、プロセスの透明性、チームの即応性。これら3つのポイントが相互に作用したことで、冷凍餃子フライパンチャレンジは単なるマーケティングキャンペーンを超えた、ブランドと消費者の新しい関係性を構築するプロジェクトとなりました。

 この取り組みがグローバルのさまざまな広告やPR賞で高く評価されたのは、環境の変化を捉え、ブランドのあり方を示す新しいブランドコミュニケーションを実現したからといえるでしょう。

アジアを代表する広告クリエイティブの祭典「ADFEST」で受賞したときの様子
 
 特にブランドにとってのオーセンティシティは、グローバルにコミュニケーション展開する上で必ず必要な視点になります。これまでの連載でご紹介したようなグローバルに通用するコミュニケーションを開発しようとするなら、ブランドの本質は何かにしっかりと向き合わないといけません。そこに、これまでブランドや企業として築き上げてきたものがあれば、それが他社との差別化につながります。

 そして、味の素冷凍食品のこの取り組みは単なる商品改良にとどまらず、企業の社会的責任や持続可能性への取り組みとしても評価されました。3500個以上のフライパンを回収し、そのデータを活用することで、資源の有効活用や環境への配慮も示すことにつながっています。

 今後、企業がブランド価値を高め、消費者との信頼関係を築くためには、このような統合的なアプローチがますます重要になってくると考えられます。冷凍餃子フライパンチャレンジは、その先駆的な事例として、皆さんの記憶に残るプロジェクトとなるでしょう。

 企業の本質に根ざした取り組み、透明性の高いコミュニケーション、そして迅速かつ創造的な対応。これらの要素を組み合わせることで、消費者との絆を深める、価値あるブランド体験を創出することができるのです。
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