新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #09

技術勝負の先にあるものは?「ゴジラ-1.0」など快進撃を続けるROBOTが追求する「熱伝導率」の高い映像コミュニケーション

前回の記事:
「ゴジラ-1.0」制作のROBOT、小さな広告企画会社が世界に認められるコンテンツメーカーになれた理由
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 今回は驚異的な映像技術によって邦画・アジア映画初となる第96回アカデミー賞®︎視覚効果部門を受賞した「ゴジラ-1.0」の制作を手がけたROBOT COMMUNICATIONS INC.(ROBOT)が登場。前編では、小さな広告企画会社から出発した同社が、創業者阿部秀司氏の強烈なリーダーシップのもと、映画業界を席巻する制作プロダクションに成長した軌跡を福崎隆之専務執行役員 経営本部 本部長に聞いた。後編は映像技術力の差が埋まりつつある今、求められる「熱伝導率の高い映像」とは何かについて考える。
 

世界が認めた映像技術


徳力 グローバル OTT (オーバー・ザ・トップ:インターネットによるコンテンツ配信サービス)の作品にも、彼らが日本上陸する頃から関わっておられますが、きっかけはプラットフォーム側からの声かけなんですか。

福崎 詳細はお話しできませんが、一般的にグローバルOTTとのプロジェクトでは、先方が企画を進めるかどうかを判断するための材料集めも含めて、かなり初期段階から意見交換を重ねてきています。あるグローバルOTTが日本上陸した際、世間では「黒船襲来」などと言われていたので、阿部さんが「トム・ハンクス主演で『ペリー来航』をやろう」と提案したけれどボツになったなどという、嘘か本当か分からない逸話もあります(笑)。

徳力 それくらい、紆余曲折があったということですね。2020年に配信されたNetflixシリーズ「今際の国のアリス」には、本当に衝撃を受けました。特に冒頭、渋谷のスクランブル交差点で、誰も人がいなくなるシーンは感動しました。その頃、「日本の実写作品やSFX(特殊効果)技術は、米国はおろか韓国にもかなわない」みたいな論調の記事を、いろいろなところで読んでいたので、私はそう思い込んでいたんですが、「日本もできるやん!」と。最初に見た時は「Netflixだから海外チームが来て撮影しているんだろう」と思ったほどで、企画・制作プロダクションがROBOTさんと知った時はめちゃめちゃ嬉しかったですね。
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

グローバルOTT作品の作品、日本の通常の作品との違いは、やはり制作期間や予算規模なんでしょうか。

福崎 一概に言えませんが、通常は多くが国内向けにつくられる作品と、グローバルOTTが海外を視野に入れてつくる作品とでは、市場規模が全く違うので、ゴール設定も、それに見合う予算規模も全く違います。ロケのために道路を大規模に封鎖するなど、撮影に伴うリスクをどう判断するかといったことも、大きな違いを生み出している気がします。

我々がグローバルの評価を意識した作品としては、2009年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した加藤久仁生監督の「つみきのいえ」という作品があります。小さいアニメーション作品でごく少人数で制作していましたが、そばで見ていて「すごいものをつくっているな」と思っていたので、受賞した時は驚きとともに、「あれは世界に届くよな」と妙に納得感があったのを覚えています。
  
「つみきのいえ」©️ROBOT COMMUNICATIONS INC.

徳力 そこから、国内外のアワードで受賞する作品も出てきますが、どんどん右肩上がりに成長している実感があったのですか。

福崎 正直、何かのブレイクスルーで世界に手が届いたというよりも、ずっと愚直にやっていて、数年に一度、たまに評価をいただいて打ち上げ花火が上がっているような感じです。
 
ROBOT COMMUNICATIONS INC. 専務執行役員 経営本部 本部長
福崎 隆之 氏

徳力 なるほど。外から見るとつい、右肩上がりのように思うけれど、ROBOTさんとしては、掛けられた予算に応じて、その時点の最高の技術で最高のものをつくっているのは、変わらないんですね。

福崎 組織として、賞などを狙って「社運をかけた大勝負」は、やってないです。個人がやりたいことをやって成長していく。もうちょっと会社として戦略的にやった方がいいという声もあるくらいなので。そういう意味では、常に社運はかかっているんですが(笑)。

徳力 日本映画は2008年に「おくりびと」がアカデミー賞を受賞した時、「ストーリーは勝負できるけど、CGを使った大作系はハリウッドに敵わない」などと言われていました。ただ、ROBOTさんの「ゴジラ-1.0」は邦画・アジア映画初となる第96回アカデミー賞®︎視覚効果部門を受賞しました。日本の映像制作は、予算さえ付けばハリウッド映画にも勝負できるレベルに追いついた、ということなんでしょうか。

福崎 「ゴジラ-1.0」のVFX(視覚効果)については、もちろん、日本トップのCGメーカーである白組さんの技術力があってこそですが、大きな流れとしては、日本と海外との映像技術的な差は、縮まっていると思います。

たとえば、アカデミー賞で「ゴジラ-1.0」が受賞した横で、作品賞など最多7冠を達成した映画「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督はCG嫌いで知られています。それはもはや技術ではなく、思想の問題ですよね。実写にこだわることが、作品の迫真性の元になっている。昔はそれこそ、CGのワンカットをつくるのに何日もかけて演算処理をして書き出していたのが、今はマシン性能も上がっているし、カメラや合成技術の精度も上がり、なんならスマホでも撮れるという状況になってきています。そういう中で、映像技術が海外に追いついたからといって、それがすごく大事なイシューかというと、そうでもないという気がしています。

徳力 確かにそうですね。デジタル化で技術力の敷居は下がってきていて、「CGを使った戦闘シーンはどの作品も大体似ているから、もういいよ」みたいな気持ちもある気がします。そうか、映像技術がある意味でコモディティ化すると、撮り方や思想の方が逆に、大事になってくるのかもしれない。

福崎 はい、人間の視覚には限界があるので、それ以上解像度を上げても、キャッチできないですからね。

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