新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #09

技術勝負の先にあるものは?「ゴジラ-1.0」など快進撃を続けるROBOTが追求する「熱伝導率」の高い映像コミュニケーション

 

熱伝導率の高い映像コンテンツ


徳力 最後に、ROBOTさんの祖業であり、現在も重要な事業である広告のお話も聞きたいと思います。90年代は広告業界の方が、映像の技術やノウハウの面という面では積極的に新しい方法を取り入れていたというお話はすごく面白いなと思いました。

ROBOTさんのグローバルOTT作品やアカデミー賞を受賞するような作品は広告から始まっている。そう考えると、日本の広告主はこの力を使わないのはもったいないなと感じます。特にネット広告では「コンバージョン率がいい=いい広告」とみなされる傾向がありますが、これに対してお考えはありますか。

福崎 難しいご質問ですが、冒頭お話ししたように、我々はコンテンツメーカーですので、コンテンツをぜひ企業のマーケティングに活用いただければと思っています。ビジネスである以上、KPIやKGIを追うのは当然です。一方で、一般的な指標では可視化されないもの、測定できないものが無意味かというと、熱伝導率とでもいいますか、単純な物差しでは測定が難しい価値というのも、映像にはあると思っています。

徳力 すごくわかります。インプレッション数を上げるだけならお金で買った方が確実だけれど、本来、熱量のある口コミが広がるためには、仰るように熱伝導率やカロリーというか、非常に難しい計算式になると思いますが、人間の心を動かす効果指標みたいなものを模索すべきなんじゃないかと思います。ROBOTさんの映像作品はそれこそ熱伝導率が高いものばかりと思いますが、例はありますか?

福崎 個人的な話で恐縮ですが…ホンダさんが1999年からスタートした「Do you have a HONDA?」という企業CMはROBOTが手がけています。私の入社前に制作されたものですが、それがすごく刺さったために、今でもホンダさんが好きで、熱のある映像は、時間を経ても心に残ることを実感しています。

当社の仕事ではありませんが、象徴的なものだとアップルの伝説的な広告キャンペーン「Think different」でしょうか。企業の思想が伝わってくるような熱量のある映像には、やはり、大きな炎のような、単純なKPIでは測りきれない力があると思います。我々も引き続き、永く深く、人の中に残る作品を追求していきたいですね。

徳力 映像コミュニケーションにはまだまだ可能性がありますよね。たとえば日本テレビの公式ショートドラマアカウント「毎日はにかむ僕たちは。」などはSNSで配信されて若い世代の共感を非常に集めていて、プロダクトプレイスメントで広告として効果を上げているんです。

企業が大規模な予算をブランド広告に投じることが難しくなっているとしても、映像の力、コンテンツの力は強いと感じます。こうした新しいプラットフォームとROBOTさんの企画制作力が掛け合わさることで、広告動画の新しい景色が見えてくるんじゃないかと期待しています。今日はありがとうございました。
 

【取材後記】


今回のインタビューを通じて素直に思ったのは、「日本にROBOTさんがあって本当に良かった」ということでした。

ROBOTさんが広告会社だったからこそ、黎明期に広告のノウハウを活用した映画製作に挑戦することができ、その頃から積み上げた歴史があったからこそ、Netflix上陸時に日本の制作会社として日本の実写映像の力を「今際の国のアリス」などを通じて、Netflixの中で世界に示すことができたと言えます。

どうしても日本人は、海外に比べて自分達日本の企業の制作力や企画力を下に見がちな傾向にあると思いますが、実はCGなどの制作力も企画力も世界随一のレベルにあり、コストパフォーマンスは非常に高いと言えそうです。

ぜひ、日本の広告主の方々にも、ROBOTさんのような企業とともに、世界で話題になるような新しい広告に挑戦していただきたいと思います。(徳力基彦)

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