マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #01

DXによって人的営業はいらなくなるのか? 学術研究からビジネス課題の解決策を考える【早稲田大学ビジネススクール 及川直彦】

 マーケティングやビジネスの最新情報を得るには、実証された知見が多く詰まっている研究者の学術研究にも目を向けるべきです。

 今回、早稲田大学ビジネススクールの客員教授である及川直彦氏が、マーケティングや営業、新規事業開発に携わるビジネスパーソンが直面する課題に対して、解決策を提供する新連載「マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究」をスタートします。

 第1回は「DXによって営業はいらなくなるのか」として、消費者行動研究をヒントにリレーションシップ・マーケティングや優れたマーケティング成果に結びつく顧客行動を誘導するコミットメントについて詳しく解説します。
 

「営業」の参考になる研究は存在しない?


 はじめまして、及川と申します。広告会社、コンサルティング会社、ソフトウェア会社においてクライアント企業の経営やマーケティングの戦略の立案を支援し、自らも会社の経営に携わっています。2019年からは早稲田大学ビジネススクールの客員教授としても、実務の最前線に立っている学生のみなさんと一緒に、学術研究をヒントにした課題解決に取り組んでいます。

 第1回のテーマは、「DXによって営業はいらなくなるのか」です。私は早稲田大学ビジネススクールで、「デジタル・イノベーションとマーケティング」という授業とゼミとを担当しています。そこで外資系メーカーに勤務する学生から、次のような質問をもらいました。

「最近営業部門からDXの推進部署に異動しました。海外の本社からは 『営業の人員を徐々に減らし、従来型の訪問営業からデジタルコンテンツとオンライン商談にシフトしてほしい』という指示をもらいました。私はこれまでの経験から、この指示に違和感があります。今後、人的な営業は本当に不要になるのでしょうか」

 営業体制やスタイルの見直しは、コンサルティングの現場でよく議論されるテーマです。従来型の訪問営業は合理化をすべき対象であるとされる一方で、この考えは「正しくない」という意見もよく耳にしました。では、こうした反対意見を「変革への反対勢力の声」として片付けてしまって、本当によいのでしょうか。

 このような場面では、推進派と反対派の双方が限られた情報や経験から自らを正当化することに終始するよりも、議論の質を高めるためのヒントが必要です。営業をテーマにした学術研究は少ないという話をよく聞きますが、実際には営業担当者のパーソナリティや行動の指向性が成果に与える違いを分析したものなど、意外と多く存在します。

 たとえば、最近私のゼミでは、米国・ラファイエット大学の心理学を専門とするAndrew Vinchur氏らによる、営業のパーソナリティ(外向性、情緒安定性、協調性、誠実性、開放性)や認知能力がパフォーマンスに与える影響について、先行研究をメタ分析した論文 (Vinchur et al. 1998)が話題になりました。

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