マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #01

DXによって人的営業はいらなくなるのか? 学術研究からビジネス課題の解決策を考える【早稲田大学ビジネススクール 及川直彦】

 

営業のメカニズムを考え直す


 それでは、「計算的コミットメント」と「感情的コミットメント」を向上させるためには、どうすれば良いのでしょうか。

 久保田先生の研究から、「計算的コミットメント」が向上するのには、買い手の売り手に対する「自分の抱える問題を解決する能力がある」という知覚(「知覚された能力」)を高めること〔仮説1〕、「誠実で、献身的で、非機会主義的だ」という知覚(「誠意ある行動」)を高めること〔仮説2〕、そして買い手が売り手に感じる「その売り手との関係を終結しようとする場合に想定されるコスト」(「関係終結コスト」)が高まること〔仮説7〕が影響するというメカニズムが実証されています。

「知覚された行動」を高めるアプローチとしては、自社の製品・サービスがもたらしうる価値を顧客に認知・理解してもらい、実現させるという営業の本質的な活動が有効そうであり、そのアプローチにおいて顧客に対する営業チームのメンバーが顧客の立場で努力をしている様子が見えることが「誠意ある行動」を高めることにつながりそうです。その一方で、「関係終結コスト」については、このモデルにおいては他の変数から独立したものとして一旦置いているものの、実際には他の変数から影響を受けている可能性もあるとされています。

 「感情的コミットメント」が向上するのには、買い手と売り手の間の自他を超えた一体感(「組織境界者とのフレンドシップ」)を高めること〔仮説4〕、「誠実で、献身的で、非機会主義的だ」という知覚(「誠意ある行動」)を高めること〔仮説6〕、そして「その売り手との関係を終結しようとする場合に想定されるコスト」(「関係終結コスト」)が高まること〔仮説8〕が影響するというメカニズムが実証されています。

「組織境界者とのフレンドシップ」を高めるアプローチとしては、顧客に対応する営業チームのメンバーが、顧客との相互的なコミュニケーションを重ねることにより、顧客が親近感を持ち、お互いに理解し合えると感じてもらい、親密な関係を構築する活動が有効そうであり、そのアプローチにおいて顧客に対する営業チームのメンバーが顧客の立場で努力をしている様子が見えることが「誠意ある行動」を高めることにつながりそうです。

「誠意ある行動」は「計算的コミットメント」と「感情的コミットメント」の向上に直接影響するとともに、「知覚された能力」を高めること〔仮説3〕と、「組織境界者とのフレンドシップ」を高めること〔仮説5〕を介して、「計算的コミットメント」と「感情的コミットメント」に影響するメカニズムも実証されています。

 このモデルは、B2Cのサービス(美容院)を対象とした調査だけでなく、B2Cよりも実質的な価値に基づく判断が重視され、感情的な要素の影響が少ないと一般的に思われているB2Bのサービス(WEB制作会社)を対象とした調査においても実証されています。
  
図2:WEB制作会社における検証(久保田 2012)

 このモデルの矢印の中にある係数は、それぞれのパスの影響の重みを、-がマイナスの方向(xが高くなるほどyが低くなる)、+がプラスの方向(xが高くなるほどyが高くなる)で表現しています。

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