TOP PLAYER INTERVIEW #77

サブスクにAI、苦情の次世代化…50年を迎えた広告審査機関JAROが向き合う広告の信頼性への課題

 

社会不安を映し出す苦情


―― 広告の審査はどのような流れで行っているのでしょうか。

 前提として、我々はモニタリングをしていません。審査の起点はあくまでも消費者の声です。一定数の苦情が寄せられると、事務局はまず、広告を確認します。

 その中でも、我々が「これは審議したほうがいい」と判断したものに関しては、広告・表示の知見を持つ会員社から構成される業務委員会を開き、審査結果(見解)を出します。

 その見解には「厳重警告」「警告」「要望」「助言」の4種類があり、それを受けて広告主側で修正が行われ、広告主と相談者の双方が納得できれば、それで案件終了となります。不服が申し立てられた場合はさらに、有識者7人による審査委員会が開かれ、裁定されます。見解を出すのは年間30~40件程度で、2023年度は8727件の苦情が寄せられ、厳重警告・警告を出したのは29件でした。

―― 苦情が寄せられる媒体や商材は時代によって変わりそうです。

 その通りです。JAROの50周年特設サイト「苦情の50年史」で、50 年に渡って受け付けた苦情を数値データや消費者の声をもとにまとめて公開しています。各年度や10年ごとの苦情の特徴や、背景となった経済・社会情勢を、豊富なグラフと共に解説していて、面白いですよ。それぞれの時代で苦情が集まる媒体や商材が変化する一方で、人々が「不快」に感じる広告の内容は、ほとんど変わらないのが興味深いです。

 JAROが生まれた50年前、最も苦情が多い媒体は新聞でした。細々した広告がたくさん載っており、不動産関係を中心に不適切なものもあったんです。1990年代にテレビが新聞を超え、折込チラシの苦情も増えました。2003年度以降はテレビが1位になり、ここ10年はWeb広告が急増して2019年度に1位になりました。電通が発表する「日本の広告費」でも、インターネット広告費がテレビ広告費を超えたのが2019年ですから、苦情数と連動していますね。

 テレビに関しては「このタレントが嫌い」や「音がうるさい」といった、法律に違反しない表現上の苦情が多いのですが、Web広告、特にアフィリエイト広告は、明らかに法律に違反しているものが少なからずあります。

 苦情件数の傾向は全体として右肩上がりで、2006年から試験運用していたウェブフォームによるオンライン受付を2013年度から集計に加えたことで、一気に増加しました。
  
提供:JARO

 コロナ禍の2020年度は過去最多の約1万5100件の相談が寄せられました。在宅する時間が増えたことでメディア接触も増えたことに加え、EC利用の増加に伴いWeb広告も増え、解約方法が不明瞭なサブスクリプションサービスなどの広告が増えたことが背景にあります。有名ブランドなどの広告出稿が減って広告単価が下がった結果、不適切な広告が増えたという事情もありました。

 この時期の苦情はさまざまでしたね。自動車のテレビCMで歌うシーンに対して「マスクなしで歌うのはいかがなものか」といった声もありました。社会全体の不安が増大すると、苦情も増える印象があります。

―― 増えた苦情件数に対して、どのように対応したのでしょうか。

 事務局も感染防止のため、在宅と出社を併用して業務にあたりました。我々の審査対象は広告枠だけでなく、たとえば営業電話のセールストーク、オウンドメディアの表示、パッケージのラベルなども含めます。消費者がそれを見て購買欲が高まるものであれば、景品表示法が規制する「広告その他の表示」になるというのが消費者庁の見解です。そのため、Webの広告・表示の審査となると長大なランディングページを人力で読み込まないといけないので、業務量は多くなります。

 申し立ての主体の多くは一消費者ですが、時折、ライバル企業の広告について「誇大広告ではないか」などと苦情を申し立ててくる事業者もあります。広告・表示に問題があるのであれば、他の案件と同様に、必要に応じて審査対象にしたり、記録したりします。

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