TOP PLAYER INTERVIEW #77
サブスクにAI、苦情の次世代化…50年を迎えた広告審査機関JAROが向き合う広告の信頼性への課題
課題増大で「変わらなきゃ」
―― コロナ禍を経て、広告に対する苦情も大きく変わったのですね。
コロナ禍で美容・健康商材のサブスクリプションサービスが急増したことを背景に、詐欺まがいの広告が増えました。苦情が寄せられる商材は、2020年度は1位が健康食品、2位が化粧品。現在は医薬部外品が多くなっています。
薬機法により「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」はそれぞれ表現できる効能・効果が異なります。医薬部外品を宣伝する時に、承認を受けた範囲を超える効果をうたうなどミスリードをする広告があるのです。
また、オンラインゲームで、実際のゲーム内容とは異なる「釣り」の広告も増えました。お子さんとタブレットで動画を見ていたら、思いも寄らない性的なビジュアル広告や残忍な表現が出てきたといった苦情が寄せられることもあります。
―― 警告を出した企業名を公表しないのでしょうか。
抽象化した事例やデータは公表しますが、具体的な企業名や対象となった広告は公表しません。「自主規制」機関ですから、企業が自主的に広告を改善するよう促しています。
残念ながら法規制や警告を受けても、それを破ろうとする人は必ずいるものです。巧妙に広告を潜り込ませる企業や人に対しては、イタチごっこの状態ですが、放置すれば問題のある広告が増えていく一方なので、なんとか歯止めをかけたいと思っています。
また、昨年10月からステルスマーケティング(ステマ)が景品表示法違反になり、責任は広告主にあると明示されたので、インフルエンサーマーケティングが普及する中、企業は「どんな場合だとアウトか」に高い関心を持っています。そういった疑問に応え、産業や広告の健全性を守っていくためにも、JAROの重要性は増しています。
2020年度には審査結果に「警告」よりも強い「厳重警告」を新設し、運用初年度の2020年度は厳重警告を15件出しました。そのうち14件はアフィリエイト広告関連で、広告主だけでなくアフィリエイター個人に対して見解を出したこともありました。
―― 50周年のスローガンとして「広告は変わった。JAROも変わらなきゃ。」を掲げました。
新たにつくったロゴの「眼」は広告主、媒体社、広告会社、そして生活者の眼でもあります。みんなの「眼のチカラ」で過去50年、広告を見守ってきて、これからも見守っていくことを、手書きで力強く示しています。
50周年の記念シンポジウムでは、AI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授が登壇し、AIをテーマに講演を行いました。クリエイティブの世界で生成AIは既に前提の技術になっています。
クリエイティブの「守り」の機関である我々もAIと無関係ではいられません。まだ具体的に言える段階ではありませんが、先ほど申し上げたように、Web広告に絡む業務増大という課題もあり、たとえば審査過程の一部にAIを導入するなどは、あり得ると考えています。適切な活用に向けた研究に着手したいと考えています。