顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #03
「満足度の高いホテル」に泊まれるのは誰なのか? 最新調査から見えてくる顧客基盤の重心【青山学院大学 小野譲司】
中心とする顧客セグメントはどこか?
RFM、LTV、顧客シェアを高めるために顧客を一人ひとり識別し、限られたマーケティング資源を優良客やそれに準ずる顧客層の維持・育成のために優先的に配分するマネジメント原理には一定の合理性がある。しかしながら、コアの顧客層のLTVに立脚するだけでは事業の持続可能性が危ぶまれるため、新規客の獲得、顧客シェアは低くとも一定の収益をもたらすライトユーザーの顧客体験にテコ入れすることにも一理ある。
優れたサービス体験をした顧客によるクチコミ、推奨、紹介などのエンゲージメント行動は、ブランドの認知や評判を高め、需要を創造する効果も期待される。ただ、そうした顧客のエンゲージメントは、顧客シェアが高いロイヤルカスタマーだけが行うとはかぎらない。むしろ、新規顧客やライトユーザーのほうが、エンゲージメントに積極的であることも珍しくない。
顧客シェアが低く、カテゴリー全体の利用頻度が高い、賢く使い分ける顧客セグメントは、ホテル以外の分野にも存在する。JCSI調査では、オンライン系の銀行、証券、旅行会社、新興の航空会社、化粧品や健康食品の通販サイトなど、高い顧客満足度を得ている新興勢力ブランドの顧客基盤には、そうした賢く使い分ける顧客セグメントが存在しているのは興味深い(小野・小川 2021)。現代の消費者は、多くのカテゴリーにおいて新商品・サービスや価格動向などの情報収集が容易にできるデジタル環境で生きており、自分にとってより価値のある代替案を、より有利な価格や取引条件で入手できることも、顧客が賢く使い分けられる背景のひとつであろう。
先述したホテルだけでなく、顧客満足度が高いブランドは、ロイヤルカスタマーだけでなく、賢く使い分ける顧客も同時に満足させている。ここではホテルを例示したにすぎないが、顧客シェアを通した顧客基盤の現状を把握することは、顧客・市場理解の手掛かりとしても有益である。あるブランドを利用している人が、他の競合ブランドとどう使い分けているか。自社のブランドに何を期待し、何に不満を持っているかという観点から顧客経験を理解する手掛かりにもなるだろう。
(参考文献)
Kumar、 V. and Werner Reinartz(2012)、 Customer Relationship Management: Concept、 Strategy、 and Tools、 Springer.
小野譲司・小川孔輔編(2020)『サービス・エクセレンス:CSIによる顧客経験の可視化』生産性出版
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