CATCH THE RISING STAR #21

伊藤園で「お茶じゃない」飲料を担う若手マーケター、「研究開発」視点をどう生かす?【西田直紀氏】

 

開発部門と同じ目線でやり取り


―― 野菜・果実飲料のマーケティングにはどんな課題がありますか。

 何より、需要・供給に大きな波があることでしょうか。供給においてはニュースでも報道されましたが、オレンジの最大供給地であるブラジルで病害が発生したことなどからオレンジが世界的に不足し、価格が高騰しているんです。加えて円安もあり、なかなか日本にオレンジが入ってこない状況が続いています。

 オレンジは「ビタミンフルーツ」や「ビタミン野菜」など当社の野菜・果実飲料にも使っています。マーケターとしては、オレンジを使用していることを逆にアピールポイントとして、店頭でシールをつけて販売したりもしました。国産原料への転換を図っていますが、環境に大きく左右されるのが、野菜・果実飲料の抱える課題ですね。

 さらに、特にスーパーフルーツ系は、テレビなどメディアの影響も強く受けます。テレビで「ザクロが老化予防につながる」と紹介された際は、当社の商品「ざくろ100」に注文が殺到し、一時的に原料不足に陥り供給が不安定になるほどでした。

 こういった原料の調達は一朝一夕でできるわけではないので、追加で手配してもらうために、必要性や根拠を各方面に説明しなければなりません。マーケティング本部は生産や営業などいろいろな部署とのハブになっているので、このような対応や調整も業務の一環として担っています。また、より良い原材料を求めて、マーケターが国内外の産地に赴くこともあります。仕入れや商品開発部門が提案してくれるだけではやはり不十分で、企画部門であるマーケターが消費者サイドも生産者サイドも把握した上で、新しい素材を提案できるようにしなければならないと思っています。

―― マーケティングは販売促進がメインに捉えられがちですが、原料探しから調達、生産、企画、販売まで幅広く関与するんですね。西田さんはさらに、伊藤園がJA全農と取り組む「ニッポンエールプロジェクト」も担当していると伺いました。

 国産果実の魅力について商品を通して知ってもらい、農家さんを応援するプロジェクトです。2019年に宮崎県産の日向夏を使ったジュースをJA全農さんと共同開発したのを皮切りに、「ニッポンエール 和歌山県産みかんゼリー」や、「ニッポンエール 長野県産りんご三兄弟」などさまざまな商品を開発して、量販店や自動販売機などで販売しています。

 飲料をきっかけにさまざまな国産果実を都市部の人々に知ってもらい、需要拡大につなげたり、過剰供給となった果実を有効活用したりする狙いもあります。私はこのプロジェクトの中心となる伊藤園の担当として、全農の方と一緒に、産地を回ったり農家さんのお話を聞いたりしながら、その思いやストーリーを商品化や販売PRにつなげる取り組みをしています。

 このプロジェクトは伊藤園以外のメーカーさんや生産振興・消費拡大に関わる企業にも広がり、共通のキャンペーンやPR施策を通して、過疎高齢化などで危機に瀕する農産物産地を応援していこうという取り組みに成長しています。

 お茶にしても野菜・果実飲料にしても、農家さんを大事にしないと、我々メーカーは立ち行きません。伊藤園はお茶だけではなく野菜・果実など農作物を扱うメーカーとして、先ほどお話ししたような原材料不足を防ぐためにも、国内農家さんの支援はこれからますます重要になると思います。

―― 最後に、研究開発職としての経験をどう生かしているか、さらに、お茶のイメージが強い伊藤園で野菜・果実飲料を担当するマーケターとしての目標を教えてください。

 開発部での3年間の経験は、今もすごく生きています。工場の設備や工程の細かいところまで知見があるので、商品開発や改良に関して提案する際にも、漠然とした依頼ではなく「こういうものをつくりたから、ここについて検討できる?」というコミュニケーションができます。開発部門と同じ目線でやりとりできるので、より品質にこだわれるのが、自分の強みだと感じています。

 最初にお話ししたように、私はもともと、健康への意識が高いです。小さい頃にアレルギーがあったり、病気がちだったりしたことから、健康的な食生活に気を配る家庭で育ったためです。自分も食品を通して人々の健康に貢献したいという気持ちが強く、その意味でも、小さなお子さまからお年寄りまで、老若男女に楽しんでいただける野菜ジュースや果実飲料は、やりがいを感じられる商材です。

 また、先ほどもお話ししたように、伊藤園は「お~いお茶」の一本柱でなく、総合飲料メーカーとして野菜・果実飲料やコーヒー、炭酸飲料などを第二、第三の柱に育てようとしています。マーケターとしてはやはりヒット商品を生み出し、健康的な飲料、食品社会に貢献していくのが目標ですね。

―― 貴重なお話をありがとうございました。
    

【上司の視点】スマートさと提案力が両立

 
山口 哲生 氏
伊藤園 マーケティング本部 野菜・果汁・乳酸菌・機能性・フードブランドグループ ブランドマネジャー

 西田さんは、彼が研究開発部門に在籍した頃からやり取りすることが多く、ぜひマーケティングでも活躍してほしいと声をかけ、来ていただきました。どんな業務でもそうですが、熱意がなければ提案型の仕事はできません。西田さんは一見、理路整然としたスマートなタイプに見えますが、頭の回転が早いだけでなく、自分の考えをしっかり持ち、熱意を持って提案する力が非常に強い人材です。

 伊藤園はお茶のイメージが強いですが、野菜・果汁飲料も実は、お茶の発売から数年後には発売開始した歴史ある事業です。お茶と同様に農業に根差したカテゴリーであり、マーケットシェアとしてはまだまだ成長の余地があるので、継続的に売場をつくる定番商品を目指して取り組んでいます。

 そのためには、お客さまがどんな価値を欲しているかを、マーケットと競合の状況を常に見極めながらポジショニングを探り、我々が最も強みとするモノづくりを提案できるマーケターの力が問われています。

 西田さんは原材料から商品開発までの現実的な工程を踏まえた建設的な提案ができ、さらにその価値をお客さまに伝えていくネーミングやパッケージデザイン、店頭での見せ方まで総合的に設計できる、強いアドバンテージを持った人材です。何より重要となる熱意をもって、これからも野菜・果汁飲料カテゴリーのシェア1位を目指して邁進して欲しいと思います。
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