新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #12

人気ゲーム「VALORANT」「リーグ・オブ・レジェンド」を生んだライアットゲームズが追求する驚きのビジネスモデルとeスポーツの新潮流

 

日本におけるeスポーツの転換点


徳力 eスポーツは興行面で注目されがちですが、ライアットゲームズの場合はそれ以前から、プレイヤーのための大会という趣旨で生まれた文化だったのですね。

藤本 はい、プロのプレイヤーが歩んできた歴史やストーリーもあって、ファンが感情移入しやすいのが特徴だと思います。昨年は、レジェンド的なプロゲーマーである韓国のFakerの殿堂入りを讃えて、ライアットゲームズとしてはかなり高額なアイテムを発売しましたが、「高い」と言われつつも、彼を応援したいファンから購入していただきました。

徳力 藤本さんがライアットゲームズに入社された2018年当時、日本ではまだPCゲームがそれほど普及していなかったと思います。中国や韓国と比べると、日本は苦戦するのではないかと私も勝手に思っていました。当時の日本と世界のeスポーツをめぐる環境には、どんな違いがありましたか?
  

藤本 2018年は「eスポーツ」という言葉が「2018ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされ、日本にも最初の波が来ていました。しかし、当時はeスポーツの定義はまだ曖昧で、ゲーム自体も今でこそカルチャーとして認められてきていますが、まだ否定的に見られる傾向があったと思います。米国ではそういった否定的な認識は1980年代で既に終わっていたのですが…。

さらに、それまであまり注目されていなかったゲーム大会に突然、優勝賞金1億円や5000万円といった大きな金額が提示されたことで、世間では驚きや疑問の声が上がりました。2018年は「日本のeスポーツ元年」のように言われる一方で、受け止め方には大きなバラつきがあったのです。

一方で、中国や韓国ではeスポーツに対する認識が全く異なっていました。中国で行われたWorldsは北京オリンピックでも使用されたスタジアムを会場にし、2~3万人もの観客が集まっていました。

徳力 スポーツのワールドカップのような盛り上がりですね。

藤本 そうです。しかし、日本ではこのような大規模なeスポーツイベントはなかなか理解されませんでした。大きな課題だったのは、世界大会が日本で開催されたことがなかったという点です。日本国内の大会は多くあり、賞金総額1億円といった大会もありましたが、そこに海外のトッププレイヤーが参加することはほとんどなかったのです。

この状況を変えようと、2020年にリリースしたVALORANTというゲームで、2023年に国際eスポーツ大会「Masters Tokyo」を日本で開催しました。残念ながら日本チームは出場することはできませんでしたが、世界中から最高峰のプレーヤーが集う大会を日本で開催し、メディアの協力も得ながら、その規模感や、日本国内の認識と世界とのギャップを示すことができたのは大きかったと思います。日本からの同時視聴者数も10~20万人ほどありました。

徳力 私が最初に衝撃を受けたのは、少し時間をさかのぼって2022年にさいたまスーパーアリーナで行われたVALORANTの日本大会でした。知人に「見ておいたほうがいい」と言われ、当日は行けなかったので後日に映像を見たのですが、さいたまスーパーアリーナが満員で驚きました。

しかもVALORANTは、いわゆるFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム:画面に腕や武器だけが映る一人称視点のシューティングゲーム)ですよね。私は個人的に大好きなのですが、日本では流行らないと思っていたのに、世界的にも人気の高いLoL以上にVALORANTが日本で盛り上がっているように見えるのは、なぜなのでしょう?

藤本 確かに、VALORANTの設定は、日本ではほとんど未知のタイプでした。そんな中で、受け入れられた理由はいくつか考えられます。

まずはLoLでの長年の実績です。新作ゲームを出してもうまくいかないとすぐ撤退してしまう会社も多い中で、私たちは何年も実績を積み重ねてきました。そんなライアットゲームズが出すゲームなら面白いはずだ、という期待を抱いていただいたと思います。

さらに、特にFPSの世界で課題となっていたチート対策にも力を入れました。チートツールを使って不正に有利になる行為は、ゲーム体験を著しく損ないます。他の人気ゲームではチート行為が蔓延し、プレイヤーのモチベーションが下がっていた時期でもありました。そこで我々は独自のツールを用いてチート対策を徹底的に行うことを、リリース前から約束しました。

また、ゲームデザインにおいては、VALORANTは従来のようなリアルな戦争を想定した狙撃や戦略的なプレイを中心にしながらも、ファンタジー要素を取り入れました。各キャラクターが特別な能力を持っていて、そのデザインや世界観もスタイリッシュにし、プレイヤー自身の個性を投影できるものになっています。これにより、従来のゲームに抵抗があった層にも受け入れられやすくなりました。
  
2024年10月にアップデートされたVALORANTのキービジュアル(画像提供:ライアットゲームズ)

そして人気を押し上げた大きな要因が、eスポーツの存在です。LoLと違い、VALORANTは最初からeスポーツを想定して開発しました。FPSは日本では一般的とは言えないかも知れませんが、コンペティションが好きなPCゲーマーは実は約200万人はいると推計され、人気ストリーマーの方々もFPSで頑張ってきた人ばかりですから、VALORANTが受け入れられる土壌はありました。

こういった理由でVALORANTは日本での人気を高め、2022年にアイスランドで開催された世界大会では日本チームが3位になるという快挙を成し遂げました。

徳力 世界大会で3位というのは、日本のゲーム界にとっては大きな出来事だったのですね。

藤本 グローバルで展開されているゲームタイトルで、それまで世界に大きく遅れをとっていた日本人プレーヤーが世界3位というのは画期的な出来事でした。オリンピックで日本選手が活躍した時のような高揚感が生まれたと思います。そういった経過を経て、2023年の世界大会が日本開催に至ったことで、日本におけるeスポーツの立ち位置が大きく変わったとみています。

※後編に続く
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