新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #13
人気ゲーム「VALORANT」がZ世代を魅了する理由、ライアットゲームズの企業コラボ戦略
キーワードは「世界観への溶け込み」
藤本 Z世代が「このブランドは自分たちの一部なんだ」と感じてくれると、非常に強い効果が得られます。企業側の論理で一方的に商品やロゴを提供するのではなく、プレイヤーに寄り添い、プレイヤーが望んでいるものを可能な限り実現できるよう努力するということです。
たとえばプレイヤーが試合の際に飲むドリンク、試合の合間に食べるもの、リラックスするために使うアイテム、高いパフォーマンスを出すためのアイテムなど、一連のゲームパフォーマンスやプレイヤー自身のストーリーと繋がりを感じられるものであれば、比較的スムーズに受け入れられると思います。
さらに、Z世代の若者は、自分が必要だと思うものに対する消費意欲が非常に強いです。画一的なものを消費することはあまりない代わりに、彼らが推しとする人やモノに強く関連していれば、Tシャツ1枚に数万円を平気で払います。つまり、彼らが好きなものや、繋がりのある世界観の中にうまく溶け込めるかどうかが重要なのです。
徳力 具体的な例はありますか?
藤本 ユナイテッド・アローズさんとコラボし、限定グッズを販売できたのは印象的でした。ユナイテッド・アローズさんの社内にもVALORANTファンがいて、ゲームの世界観を尊重しつつファン目線のアイデアを取り入れて、「さすが」と唸りたくなるような高品質な商品を用意してくださいました。2022年のオフラインイベント「Riot Games ONE」を横浜アリーナで行った際は、買いたい人の長蛇の列で階段まで埋まるほどの人気ぶりで、2023年に日本で開催した世界大会でもコラボしました。今年の「Riot Games ONE 2024」でもコラボ商品を販売予定です。
2022年12月に横浜アリーナで開催した大会「Riot Games ONE」でユナイテッド・アローズとコラボし販売したスウェット(画像提供:ライアットゲームズ)。今年の販売予定商品は大会公式サイトでチェックできる。
徳力 音楽コラボにも力を入れていますよね。NewJeansとLoLのコラボやXGとVALORANTのコラボには驚きました。
藤本 そうですね。音楽とゲームのコラボは珍しくありませんが、私たちの場合、完全に世界観に同化してもらうのが特徴的だと思います。たとえば、去年のNewJeansとのコラボでは、彼らの得意な曲調とは全く異なる、LoLの世界観に沿った楽曲をつくりました。
今年のLoLの世界大会では音楽界のスーパースター、LINKIN PARKが歌ったアンセム(テーマ音楽)「Heavy Is The Crown」が9月にリリースされ、ミュージックビデオはYouTubeで5600万回以上再生されています。11月にロンドンで行われた決勝戦のオープニングセレモニーでは彼らのライブパフォーマンスが行われ、大いに盛り上がりました。
Worlds 2024 決勝戦オープニング セレモニーでのライブファフォーマンス(League of Legends公式YouTubeより)
徳力 異業種コラボは、ライアットゲームズにとってはどのような意義付けなのでしょうか。
藤本 我々がeスポーツを興行ではなくプレイヤーのための場と捉えているのと同じですね。全ての目的は「プレイヤーへの還元」が基本です。ゲームをプレイすることで広がったエンゲージメントを、ゲーム外の体験でもつくり上げることを考えています。大会の内装にしても音楽にしても、全てゲームやプレイヤーのストーリーと同期して、どこまで感動をファンに届けられるかということに挑戦しています。
徳力 これまでのお話を伺って、かつてのゲームの位置づけが劇的に変わってきていると感じますね。
藤本 日本におけるエンターテインメントやIPの展開は、アニメや漫画が基本にありますが、世界的に見るとゲームが非常に強力な入り口になっています。特に私たちは、ゲームで伝えたい世界観を別の手法で表現することに対して投資を惜しまないという方針を取り、毎年、期待値を上げていくように意識しています。
徳力 藤本さんは日本マイクロソフトでマーケターとしての経験もおありですよね。日本企業のマーケターは、このトレンドにどのように関わっていくのがいいと考えていますか。
藤本 基本的ですが、大切なのはまず知ることです。私も2018年に入社した際はVTuberもゲーム配信者もゲームのプロプレイヤーも、ほとんど分かっていませんでした。ゲーム自体は経験がありましたが、そのコミュニティについても知りませんでした。
ですが、知ることで初めて生まれてくるアイデアがたくさんありましたね。マーケターとしては、大会を見て「盛り上がっているなあ」で終わらず、背景を探って、ぜひ自社にできることを考えてみてください。マーケターとしての腕の見せ所だと思います。
徳力 これからゲームの世界を知りたい人はどこから入っていけばいいのでしょうか?
藤本 VALORANTは現在、PCのほかPlayStation 5やXboxでもプレイでき、より多くの人がプレイできる環境が整っていますから、ぜひ試してほしいです。ただ、私もそうですが、年齢を重ねると目で追うのがなかなか難しいという悲しい現実が(苦笑)。
簡単な方法としては、eスポーツの放送を見ることをお勧めします。VALORANTでは世界大会のほかに日本にも国内大会がありますし、毎週のように熱い戦いが繰り広げられています。公式YouTubeチャンネルなどで気軽に見られます。空気感を知ることができますし、最初は何が何だか分からないかもしれませんが、不思議とずっと見ていられます。ファンのコメントも興味深いですよ。
【対談後記】
私自身、ゲームとともに育った世代ではありますが、昭和におけるゲームと、現在のZ世代にとってのゲームは、根本的に位置づけが変わっているということを痛感したインタビューでした。
ライアットゲームズの特徴は徹底的にユーザー目線でゲームもコミュニティも運営されているという点でしょう。そのポジションが、信じられないほどの同時視聴数や、ハードルが高かったはずの日本市場での成功につながっていると感じます。
特に企業のマーケティングにとっては、ある意味従来のスポーツよりもVALORANTのようなeスポーツの方が、デジタルアイテムでのコラボなど新しいコラボの可能性が拡がっているとも言えます。
これまでeスポーツに興味が無かった方も、この記事が「知る」きっかけになれば幸いです。
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