新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #11

企業の縦型ショートフィルムは最も難しい? 『カメ止め』『アングリースクワッド』の上田慎一郎監督が切り開く広告とコンテンツの未来

 

「縦型ショートフィルム、侮れず」


徳力 そういうタイプだと思いました(笑)上田さんが所属する制作会社PICOREでは、企業案件の縦型ショートフィルムは事業の柱になっているのですか。

上田 そうですね。幾つかのチームが同時並行でつくっています。

徳力 スポンサードのショートドラマのクリエイターとして、どんな人が向いていると思いますか。

上田 柔軟性とこだわりの両面があったほうがいいですね。それから、企業の方々とのコミュニケーション能力も必要です。映画の場合も、チームメンバーや出資者への説明は必要ですが、映画制作の場合は映画に詳しい人が集まっていることが多いです。しかし、縦型ショートフィルムの場合は、企業の人がクリエイティブに不案内な場合も多いので、きちんと伝えたり、相手に伝わっていないと思ったらきちんと説明したりすることが大事です。コミュニケーション能力に長けた人材がチームにひとりはいたほうがいいですね。

それからやはり、アイデアマンは向いていると思います。ショートドラマは本当に短距離走なので、大喜利的なアイデア力はあるといいですね。

徳力
 かつてはクリエイターを目指す若者が作品で食べていけるようになるまで時間がかかるのが当たり前でしたが、ショートドラマを土壌に人材が育ち始めているんですね。

少し飛躍しますが、先般、山崎貴監督や是枝裕和監督が、当時の岸田首相に映像制作現場の環境改善を要望したことも記憶に新しいです。日本の映像制作の過酷さは「やりがい搾取」と指摘されることもありますが、縦型ショートフィルムの制作は若手の育成という面では、相性がいいのではと想像します。

上田 働き方の面で言うと、縦型ショートフィルムの制作においても「やりがい搾取」の危険がないわけではありません。

徳力 そうなんですか。日本は「搾取」に流れがちですね。

上田 根本には、縦型ショートフィルムが映画などよりも「下」に見られる傾向が感じられます。短いし、縦型だから美術やセットもあまりいらないし、スマホで撮っているチームもあるのだから低予算で済ませられるのでは、という先入観があるかもしれません。

徳力 簡単に撮れるだろう、みたいな。

上田 確かに実費は横型動画よりもかからないことが多いです。でも0→1のクリエイティブの部分は同じです。そこを安く見積られてしまうと、再び「搾取」が起こりかねないので、時にはきちんと戦って、守っていかなければと思っています。

徳力 ショート動画の中には、素材を繋ぎ合わせただけのものや、ネタ動画のようなものも母数としては多いので、「低俗なもの」というように見る人もいるのでしょうね。

しかしこの傾向は、YouTubeが出てきた時などと同様、イノベーションが起こる時にはつきものかもしれませんね。新しい価値をきちんと評価して楽しめる人たちと、上田監督はトライを重ねているのですね。

上田 そうですね。TikTokとKDDIの共同キャンペーン『#ショートフィルム Supported by au』で毎週のように新作を発表した時期も「『縦型ショート、侮れないな』と思わせるような作品をつくろう」と意識しました。そこで生まれたのが、TikTokで1話目の公開から4日間で約500万再生を獲得し、大バズりした『みらいの婚活』などの作品群です。
 
@picorelab 「みらいの婚活」第1話 #PR #ショートフィルム #アンバサダー ♬ オリジナル楽曲 - 上田慎一郎
『みらいの婚活』(クリックするとPICOREの公式TikTokに飛びます)

縦型ショートフィルムは「賞味期限」が極めて短いという性質があるのですが、息の長い作品をつくりたいと思いました。10年後も見られている縦型ショートフィルムって、なかなか想像できないですけど、普遍性と新規性の両方、古典のような強度が必要だと思います。

徳力 なるほど。もう一度見たくなる古典的作品となると、次々と消費していくショート動画とは、つくり方が少し違うかもしれませんね。

上田 縦型ショートフィルムは一般に、1日3~4本撮る人が多いのですが、僕は基本的に1日1本です。

徳力 1本1本、丹念に勝負するのですね。最近、中国で流行っているショートドラマなどは、従来のテレビドラマを縦型ショートフィルムに分割しているイメージですね。濃密なドロドロ系を3分ずつくらいで見せて、連続ドラマのようにしている。

上田 僕も妻(映画監督のふくだみゆき氏)と共同脚本で、初の縦型ドラマを制作することが決まっています。1話90秒で全20話です。縦型ショートフィルムの配信プラットフォームが立ち上がる動きもいろいろあるようです。

徳力 縦型ショートフィルムのプラットフォームは、中国だとすごく売れているそうですね。

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