テレビCM新時代 #03

ノバセル、日テレ対談「運用型テレビCMの先駆者」と「地上波の覇者」が語るテレビCMの未来

 

指標は統一か、多様化か


武井 綿川さんのお話を伺って、私たちがやってきたことは間違っていなかったと感じました。アドリーチマックスプロジェクトでは、「アドリーチマックスプラットフォーム」というバックエンドの仕組みと、そのフロントエンドとなる「スグリー」を構築しています。これによって、さきほどお話した放送20分前までの素材差し替えのほか、前日までのターゲットを指定したインプレッション予約の発注、放送数分前までのインプレッションを取引指標とする自動入札などができるようになります。

アドリーチマックスプラットフォームの理想は、テレビCMにおける東京証券取引所のような存在になることです。現在は「スグリー」を日本テレビの直営サービスとして位置付けていますが、そこに閉じるのではなく、外部のいろいろなシステムとオンラインで接続していきたいと思い、他のキー局とも話をしています。

綿川 プラットフォーム構想なのですね。

武井 はい、閉じるのではなく、オープンにしていきたいと考えています。これまで広告会社の皆さんは、放送局に対して放送4営業日前までの素材入稿を、なんとか1日前にしてほしいといった交渉を一生懸命にしてきたのではないかと思います。それはテレビという媒体をより効果的に活用するための提案であって、本来なら放送局にとってありがたい話であるはずです。ただ、我々のオペレーションやシステムの問題でお応えできていなかったので、そこに変革を起こし、当然のように放送直前のクリエイティブ変更や、効果が良ければ追加発注するといったPDCAを早く回せる仕組みをつくっていきたいと考えています。

一方で、私たちにできないこともたくさんあります。たとえば、私たちは広告主と直接的には向き合っていないので、広告主の皆さんがどのようなKPIを追いかけているのかは正直わかりません。また、あまりに多くのKPIを持ち込まれても、私たちの中で在庫をうまく運用できなくなってしまうので、広告会社さんとの間である程度、指標を統一しておいたほうがいいだろうと考えています。

そして広告会社さんが買い付けた枠は、いろいろな広告主に多様な指標と運用方法でご提示いただいたほうが、テレビCMの価値は上がっていくと思います。スグリーはそれをサポートできるような柔軟性をもった仕組みにすることを目指しています。
  

綿川 今のお話は、私がとても知りたかったことです。スグリーの取引指標については、旧来的なビデオリサーチ(VR)の視聴率に、人口動態なども含めてインプレッションを導き出していますよね。また、課金形態にはデジタル広告にもあるオークションの考えを取り入れ、デジタルとテレビの距離を近づけています。まさに広告市場でテレビの価値を引き上げるような形になっていて、すごいなと感じます。

一方で、視聴率は広告主の事業成果とはやや距離が遠いため、「なぜ視聴率を追わなければならないのか」という疑問を持つ広告主もいます。それに対して我々は、独自にツールをつくってアプリダウンロード数やUU数を可視化することで、CMによって事業が成長しているかどうかの指標にして運用してきました。
  
CM効果測定に関するノバセルのサービスの一部(引用:ノバセル公式サイト)

スグリーは今後、プラットフォームとしてさまざまな外部サービスと接続していきたいというお話でしたが、広告主の意向に合わせて、より事業成果に直結する指標を計測できるよう、広告会社などのプレイヤーと話しながら、可変性をもってやっていくことはお考えなのでしょうか。

武井 まさに本質的なご質問ですね。お答えするには2つの視点があると思います。ひとつは在庫管理、もうひとつは私たちがスグリーをどういうサービスにしたいかという視点です。

前提として、テレビCMの投資対効果が可視化しにくいというのは従来から指摘されている通りです。そのためテレビCMによってこれだけのコンバージョンやサイト訪問が得られたという効果を可視化していただけるのは、放送局としても大変ありがたいことです。

その上で、在庫管理からお話しすると、取引指標が増えれば、それだけ在庫管理が難しくなるというのが現実です。現在のスポットCMは、ALL(個人全体視聴率)のP+C7(番組平均視聴率と7日間のCM枠平均視聴率)、つまり視聴率というひとつの指標でしかセールスをしていません。そのため、在庫管理がとても簡単なのです。

一方で、スグリーでは視聴率をベースに使いながら、その指標を多様化させることにも取り組んでいます。まず開こうしているのは、これまで基本的にしてこなかったターゲットを指定した取引です。ALL、つまり4歳以上の全ての年代ではなく、特定の年代に絞った在庫管理を取り入れようとしています。

ただ、これだけでも在庫管理はかなり複雑さを増します。ALLならまだ在庫があるけれどターゲットに絞ると在庫がない、という事態が起こるため、これまで人間が管理していた領域をシステム化させて、ある程度マルチにコントロールできるようにする予定です。

それだとCPMの域を出ないのですが、その先にあるサイト来訪数やブランドリフト、コンバージョンといった指標を取引指標として取り入れるのは、在庫管理上、まだ厳しいと考えています。なぜなら取引指標を多様化すると、在庫の残りが読み切れなくなるため、保険として高めの価格で売らざるを得なくなる可能性があるからです。この良し悪しは別として、それだと広告主の皆さんには寄り添えていないので、広告会社さんとの間の取引は、ある程度統一された指標のほうが全員にとっていいのではないかと思います。

そこで、一旦はビデオリサーチの視聴率をベースとしたターゲットインプレッションに落とし、広告会社さんにはそこで始めたキャンペーンを、多様な指標でセールスしていただくのがいいのではないかと考えています。
   スグリーで提供される予定のレポート例(提供:日本テレビ)

スグリーの場合、放映後、最速で15分後にレポートをお渡しするのですが、そこではVR視聴率をベースとした推計のインプレッションになります。また翌営業日にリーチ(到達人数)、フリークエンシー(平均接触回数)を、率ではなく実数で示します。これによって、複数エリアのテレビキャンペーンや、デジタル広告との合算など統合分析をしやすくしています。

綿川 なるほど。指標を多様化すると在庫管理のコストが上がり、価格が上がる可能性があるというのは興味深いです。

武井 もうひとつは、スグリーというサービスが何を目指すかです。実は、スグリーを紹介する時に、「ノバセルさんなど広告会社さんと競合するのでは?」と指摘されることがあります。

※後編(広告会社と放送局は競合するか? ノバセルと日テレが見据えるテレビCMの価値と未来)に続く
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