テレビCM新時代 #04
将来、広告会社と放送局は競合するか? ノバセルと日テレが見据えるテレビCMの価値と未来
運用型テレビCMが切り開く未来
―― これまで広告主の利益に焦点を当てながら、広告会社と放送局のそれぞれの視点から運用型テレビCMについて話してもらいました。一方で視聴者や消費者にとっては、運用型テレビCMの普及はどのような影響を与えるでしょうか。
綿川 やはり、視聴者が見たくない広告を流してしまうのは、広告会社や広告主、メディアの価値を毀損してしまうと思っています。冒頭に私たちの現在のフェーズとしてお話しした、中長期的なブランディングとの両立という話とも繋がり、たとえば20分前など放送直前にCMを購入できる世界になれば、消費者にとって本当に必要な情報が今までよりも届くようになります。これまでテレビCMがいわば一方的に放映していたものが、消費者の検索行動に合わせて表示されるデジタルメディアに非常に近いものになっていくのだと思います。
視聴者にとっては、CMがある意味でテレビの価値を損ねていた部分があるために、録画や配信コンテンツなどに流れる傾向があったと思うのですが、テレビでも有益な情報がしっかりと手に入るようになるというのは、大きな意義のあることなのではないかと思います。
武井 そうですね。テレビ局の営業局は広告枠を売ってお金に換えるのがミッションですが、今やさまざまなデバイスや配信サービスがあふれ、地上波テレビの視聴率はどうしても減っていきます。そうなると営業的にはどうするかというと、民放連がCMの設定量として定める上限18%ギリギリまでCM本数を増やすしかなくなってきます。
でもそれは視聴者にとって「CMばかりでつまらないな」と思わせ、ますます、質が高くてCMのない、あるいは少ない別の配信コンテンツへと向かわせる要因になりかねません。テレビ局はやはり、テレビの視聴体験を良くすることを追求するのが基本的な使命だろうと思っています。
ただ、現在の手札だとなかなかそれが難しい。インフレの中、広告枠の価格についても交渉させていただきたい気持ちはありますが、何の付加価値もなく、ただ値段だけ上げさせてくださいとお伝えしても、テレビCM離れを加速するだけだと認識しています。テレビ側もしっかり投資して、まさにノバセルさんのように、テレビCMを使いやすく効果的なものにするためのプラットフォームを構築することで、国民の財産である電波をしっかり価値に変えていきたいと思います。
綿川 テレビの使命というお話を聞いて改めて考えたのですが、私たちも「マーケティングの民主化」という大きなミッションを見据えて、最短距離でそこに行き着こうとしています。
具体的には広告施策の効果の可視化やプロセスの透明化といった、広告主に向けたサービスがメインになるのですが、最終的にはもちろん、マーケティングによって届けたい消費者に、届けたい商品をきちんと届けられるようにしたいという思いがあります。
独自の仕組みや、ツール、座組を提供することで、効果検証やデータドリブンな投資判断にかかる負担を極力減らし、広告主や事業会社のマーケターが、新商品開発や新体験創出などの「価値の創造」に、より多くの時間や人を割くことを可能にすることを目指しています。
この「価値の創造」をサポートすることで、世の中に良い情報や商品が出回るサイクルをつくりたい。そのサイクルの中で、広告主が消費者に届ける媒体として大きな影響力を持つのがテレビCMです。だからサプライヤーであるテレビ局、その中でも大きな存在である日テレさんが動いてくれるのは、市場に大きな石を投げ、良い意味で渦を巻き起こしてくれるだろうと期待します。我々もその渦にしっかり入って、マーケティングの民主化への最短距離を一層追求していきたいです。
武井 私たちも、一旦は日本テレビ単体の取り組みではありますが、それで終わらせてはいけないと思っています。今のテレビは、たとえるならアナログ時代の看板に近く、何日か前に貼ったらしばらくコンテンツを変えられない媒体です。それでも重要な価値がありますが、全てのクライアントのニーズには応えられません。しかし、この状況をシステム開発によって変えようという意思決定や投資判断をできるテレビ局は、日本では非常に限られていると思っています。
個人的な話になりますが、報道局の宮内庁担当記者として、皇族の方々に伴って日本各地を巡った際、地方の経済界やローカル局の状況を拝見したのが、印象に残っています。それぞれのテレビ局の自助努力に委ねるのではなく、まずは日本テレビが先陣を切って、仰っていただいたように業界に石を投げて、いずれは日本に127ある民放局みんなが元気になるようなプラットフォームを目指したいですね。
―― お二人の対談を聞いて、テレビCMが視聴者や日本経済にとってより一層価値あるものに変わる未来が楽しみになりました。本日は貴重な対談をありがとうございました。
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