マーケターズ・ロード 笹本裕 #01

元Twitterジャパン社長の笹本裕氏が語る、逆境を乗り越える思考術

 2024年2月、スポーツストリーミングサービスを手掛けるDAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発に就任した笹本裕氏。同氏はこれまでMTVジャパン、マイクロソフト、Twitter Japan(現X)など、世界的な企業で要職を歴任。メディアとテクノロジー、エンターテインメント業界を中心にビジネスを牽引し、そのキャリアを築いてきた。現在はDAZNで、日本市場に加えてアジアパシフィック(APAC)での成長に注力している。

 一見、輝かしいキャリアを歩んできたように見えるが、その道のりは決して平坦ではなかった。リクルートでの新人時代の苦労、起業への挑戦、マイクロソフトで感じた大きなギャップ、そしてTwitterで直面した破壊と創造…。2024年8月には、Twitterでの経験をまとめた書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)を上梓している。

 本連載では、笹本氏が経験してきた数々の転機やグローバル視点で導いた成長と変革の実績、トップリーダーから学んだビジネスの本質、そして日本産業の未来について全5回で紐解いていく。

 第1回は、前職であるTwitter Japan社長時代のイーロン・マスク氏による買収から退任に至るまでの215日間で経験した「破壊と創造」に焦点を当てる。なお笹本氏は、2024年12月5、6日に東京で開催される日本最高峰のマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ東京2024(主催:ナノベーション)」内のキーノートセッションで登壇し、「Twitter成功の軌跡とDAZNでの新たな挑戦」について語る予定になる(詳細はこちら)。
 

Twitter買収「破壊と創造」の215日


―― 2024年8月に出版した書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』が話題になっています。書籍にまとめようと思ったきっかけからお聞かせください。

 書籍のタイトルが示す通り、私がTwitter Japanで過ごした215日間は「破壊と創造」の連続でした。これまでの人生で経験した中でも最もショッキングな買収劇でしたが、その過程で多くの学びを得ることができました。それらの経験は、今後の自分自身のキャリアの糧になると思っています。

 その一方で、今の日本の経済環境にはまだまだ閉塞感があります。世界が急速に変化する中で、日本の立ち位置の見直しが求められていると感じています。そのような中で経験したTwitterの買収劇は、自分以外のビジネスパーソンにも役立つのではないかと考えました。次世代に何か残したいという思いで、書籍を執筆したのです。
 
DAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発
笹本 裕 氏

 2024年2月、DAZN Japan CEO 兼アジア事業開発に就任。日本でのマーケットリーダーとしてのポジションを確固たるものとしながら、アジアパシフィック(APAC)への拡大、DAZN Taiwanの事業成長を担っている。これまでの27年以上のキャリアで、テクノロジー、メディア、エンターテイメント領域でリーダーとしてビジネスを牽引。Twitter Japan株式会社では代表取締役として日本とAPACの成長を主導し、2014年の就任から9年間で本国アメリカに次ぐ事業規模を築く。エム・ティー・ヴィー・ジャパン、マイクロソフトといったグローバル企業・ブランドでの経験も豊富で、日本のみならずグローバルな視点で成長と変革へと導いてきた。現在も株式会社サンリオ、株式会社KADOKAWAで社外取締役を務めている。

 私が伝えたかったことは2つあります。ひとつは、Twitterの買収を通じて感じた「イーロン・マスクの思考プロセス」です。この215日間の大半は組織の「破壊」の時期でしたが、イーロンがTwitterの買収を通して何を構想し、どのように新たに創造しようとしたのかを垣間見ることができました。

 もうひとつは、日本が直面している閉塞感と、激動する世界の中で日本がどう変わっていくべきなのかについての提言です。大げさに言えば、「これからの時代に向けた心構え」を提唱したいと思いました。

―― 笹本さんの視点から見て、日本の閉塞感とはどのようなものですか。

 日本は、いわゆる「失われた30年」、バブル崩壊後の1990年頃から20~30年の空白を経験してきました。この期間、バブル時代の日本と比べて大きな違いは、やはり「活力」だと感じています。それは経済的な活力だけでなく、人々がライフスタイルを向上させるために必要な力もあるでしょう。

 さらに、日本が抱える問題としてよく言われるのが「ガラパゴス化」です。これは、日本の孤立した特異な環境で、製品やサービスが独自の進化を遂げる一方で、国内的な基準や市場からは乖離してしまう現象です。たしかに、日本には独自の良さがあり、先進的な製品やサービスをつくることに長けている一方で、それらが国内だけに閉ざされてしまうケースが多くあります。このような内向き志向は、当然ながら外需獲得の機会を狭め、それが結果的に日本経済全体の閉塞感につながっているのではないかと考えています。

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