CATCH THE RISING STAR #23
タカラトミーの大ヒット玩具「ぷにるんず」担当の若手マーケターが目指す「親を説得できる」プロモーション【中山日菜乃氏】
ヒットを継続させるには
―― 大ヒット商品のマーケティングを先輩から引き継ぐのは、プレッシャーもありそうですね。施策を考える上で難しい点や、工夫した点はありますか。
玩具全般のマーケティングに言えることですが、まず訴求する相手が子どもだけでなく、親世代も含める必要があります。どんなに子どもが欲しいと言っても、購入のジャッジをするのは親である場合が多いですから。加えて、同じジャンルやシリーズでも、商品によって相手に刺さるプロモーションの要素が全然違います。「ぷにるんず」は第1弾、第2弾、第3弾とシリーズ展開してきましたが、それぞれ差別化ポイントを設けて、それを子どもと親に訴求していく必要があるので、難しさを感じています。
その上で、試行錯誤しながらではありますが、「ぷにるんず」シリーズのプロモーションで工夫した点は大きく2つあります。ひとつは子どもが親に説明しやすいよう、以前までの商品との違いを分かりやすく伝えることです。
たとえば、子どもが店頭で新商品の「ぷにるんず ぷにともつーしん」を手に取った時に、親から「もう同じもの(それまでの「ぷにるんず」)を持っているでしょ」と言われてしまうことは多いと思うんです。そういった場面で「でも、ここがこう変わって、こんな面白さがあるんだよ」というように、子どもたちが親に「プレゼン」できる材料をこちらから提供しておくことで、購買に結びつけられるようになります。
「ぷにるんず ぷにともつーしん」では、既存の第2弾との違いとして、友だちが持っている「ぷにるんず」にキャラクターがお出かけできたり、YouTubeにある「ぷにるんず」のショートアニメと連動させて、YouTubeからキャラクターが液晶画面に「飛んで」きたりする「つーしん遊び」の機能がつきました。この点について積極的に、テレビCMや広告でも打ち出したのですが…。「つーしん遊び」の面白さを子どもに伝えるのは、課題も感じましたね。
―― 課題とは具体的にどういうことですか。
つまり「YouTubeから飛んでくるってどういうこと?」ということです。差別化ポイントとして「つーしん遊び」の面白さを訴求しても、実践してみると分かるけれど、言葉で説明するのがどうしても難しい。それよりも、子どもたちにとって「ぷにるんず」で絶対に欠かせないのは、「ぷにぷに」の触感であることが購入者アンケートなどから読み取れます。
デジタルとアナログの融合は「ぷにるんず」の大きな特徴であり、これからも訴求していくポイントになるので、いかに分かりやすく伝えるかは、工夫していかなければなりません。一方で、「ぷにぷに」の触感は絶対に大切にすべきということも、今回の新商品で気づきを得られました。
もうひとつ工夫したことは、60種類以上にものぼるキャラクターをコンテンツとして自社IP化したことです。ちょうどアニメも始まったタイミングでIP化を実現し、グッズ販売やイベントなど多角的に展開して、新規ファンの獲得を進めています。
「ぷにるんず」の他に、〝ぷくっとピタッとデコれるふうせん〟「ウーニーズ」など「クラフトホビー」全般のマーケティングも担っています。クラフトホビー売場では、パッケージの色などが似通ってしまいがちなので、売り場で埋もれないための工夫が重要です。パンチの効いたネーミングにしたり、「こんなのがつくれるんだ!」と驚いてもらえるインパクトのあるCMを出したりして、差別化ポイントを打ち出す点では、「ぷにるんず」と方向性は同じですね。
―― 今後の目標や、そのために普段から心がけていることはありますか。
今はとにかく、担当商品をしっかりプロデュースして、ヒットさせたいです。これまで当社でヒット商品を数多く生み出してきたマーケターの先輩社員を見ていると、いくつもの引き出しや「駒」を持っていて、それを瞬時にロジックとして組み立て上げることができて、なおかつ幅広い想像力を持っているんですよね。「これが起爆剤になって、そこからこう広がって、ここでヒットする」というような。ヒットを連続させるために、その後のことまで全部、あらかじめ組み立てて動いているのが、純粋にすごいなと憧れます。
知識も経験も不十分な自分は、まずは引き出しや駒を集めるのに精一杯で、持っている駒をうまく使って、戦略を組み立てるところまで正直できていません。挑戦できることには何でも挑戦して、いろんな人の話を聞いたり、自社だけじゃなく競合ヒット商品を分析したり、過去の成功事例や失敗事例を検証したりして、知識の量を増やしていきたいです。
そんな考えもあって、普段からとにかく「知ること」を心がけています。普段からSNSで情報収集したり、おもちゃ売り場に足を運んで状況をチェックしたり、社内のデータベースを活用してリサーチしたりします。業務としても、数百名規模でのアンケート調査や、時にはオフィスやスタジオに子どもに来てもらって、実際におもちゃを触れてもらった時の反応を見る調査なども行いながら、子どものインサイトや訴求ポイントをつかもうとしています。
あと、これは仕事と直接関係ありませんが、プライベートでサウナにハマっていて…。同僚に誘われて行ってみたのですが、今では週1、2回は「サ活」しています。スマホなどデジタル機器から離れて汗をかいて「整う」と、不思議と頭の中も整理されて、特に仕事に行き詰まっている時は、何かが解消されるんですよね(笑)。
―― 貴重なお話をありがとうございました。
【上司の視点】ファンと同じ感性・情熱が武器
武田 誠 氏
タカラトミー Hitsビジネス本部 ファッションエンターテイメント事業部 マーケティング課 課長
タカラトミー Hitsビジネス本部 ファッションエンターテイメント事業部 マーケティング課 課長
現在、中山さんは複数の担当ブランドにおいて、市場調査分析、戦略の策定、広告宣伝やセールスプロモーションなど、幅広い業務を日々こなし活躍いただいています。
中山さんの強みは、自身が担当しているブランドのファンであることです。お客さまとしっかり目線を合わせることができる視野を持っており、ファンとしての感性や情熱を持っています。これは何にも代えがたい武器です。自信を持ってブランドと向き合い、必ずやヒット商品を生み出してくれると期待しています。
また、中山さん自身はまだ経験不足と感じているようですが、重要なのは経験よりも向き合う姿勢です。目指していただきたいマーケター像として、まずは想像力と好奇心を持ち、広い視野で物事を捉えることです。そして得たヒントをもとに自問自答を繰り返し、未経験の分野にも挑戦する冒険心を持ち続けてください。大きな課題と対面しても、客観的な検証を繰り返し、夢で終わらせず実現に向けて努力し続ける姿勢を持つことだと考えています。
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