CATCH THE RISING STAR #24
無印良品「みんなでつくるバウム」大反響の立役者、共感を生む若きマーケター【建石帆乃香氏】
KPI大幅に上回る投票数
―― 確かに、地域にちなんだ商品であればバリエーションも豊富で、SNSでの話題も広がりやすそうですね。投票数を増やすために工夫した点はありますか。
特に重視したのは、「食べたい」と意欲を掻き立てるクリエイティブです。たとえば「フルーツミックスパフェバウム」「みたらし団子バウム」「塩パンバウム」というように、バウムクーヘンであっても、イメージされる食べ物が具体的に想起しやすいネーミングにしました。今回の企画は、まだ存在していない未知の商品に投票していただくため、どんな商品なのかどれだけ想像してもらえるかがポイントになります。イラストはアルバイトから社員まで絵が得意な人を社内で募り、これも8人選定して、フォーマットを揃えた上で、食感まで想像して食べたくなるようなイラストを描いてもらいました。
投票数を増やす工夫としては、基本的にXの広告以外には宣伝コストをかけず、複数のチャネルで告知することを意識しました。通常のメルマガやSNS、オウンドメディア、各店舗のInstagram、各Web媒体の担当者への直接のお声がけ、当社で「アンバサダー」と呼ぶインフルエンサーの方々への告知など。複数のチャネルでの拡散であっても、一体感を持たせられるように事前の情報共有を徹底し、投票開始前に情報を少しずつ出しつつ、投票が始まったら一気に拡散して盛り上げてもらえるような体制を整えました。
この結果、想定以上に反響をいただきました。2023年夏に実施した「あなたの知らないMUJIカレー」の投票プロジェクトでは総投票数約3万7000票だったところから、今回のプロジェクトは総投票数の目標を5万票に設定したのですが、大幅に超える7万5420票を達成することができました。
このプロジェクトでは、単なるSNS施策にとどまらず、次期の売上アップを見据えた基盤づくりにも繋がりました。また、お客さまの声をダイレクトに反映する取り組みとして、商品価値を改めて強化する機会にもなったと感じています。
―― 素晴らしい成果ですね。既に大きな実績を立てられたわけですが、課題を感じることはありますか。
すごくありますね。たとえば今回のプロジェクトにしても、2つ課題を感じました。まず、相手に応じた適切な共通言語や共通認識を持つことの難しさです。今回、デザインやSNS、商品開発、店舗など、いろいろな部署や担当者とやり取りをする中で、それぞれの領域によって共通言語やトンマナが微妙に違うと気づきました。ひとつのプロジェクトを進めるにあたって、相手の立場や言語、認識を理解し、近づけることの重要性を認識しました。
もうひとつは、そういう言語や認識の微妙な違いがある中で、目的意識をしっかり保つことです。いろいろな人と関わって企画を進めていくと、プロジェクトに対する理解や考え方、方向性が、相手だけでなく、自分の中でも少しずつずれていきそうになるのを感じました。相手の立場に立って言葉を選ぶのと同時に、常に企画本来の目的や意義に立ち返ることも大切だと思いました。
―― 今回のプロジェクトでも、迷いが生じることはあったのですか。
そうですね。たとえば8種のバウムのイラストの描き手は、トンマナの統一性や効率の観点から、ひとりに絞ったほうがいいのではと考えた時期もありました。ただ、「みんなでつくるバウム」の目的に立ち返ると、「みんな」はお客さまだけでなく、社員にとっても愛着ある商品群にしたい、という意図がありました。
結果としては、出来るだけ多くの社員に関わってもらう意味で、8種のイラストは別々の8人に描いてもらうという選択になりました。結果的に描き手の個性が出る、すごく良いアウトプットになったと思っています。
―― ご自身の個性が仕事に生きていると感じることや、今後の目標はありますか。
自分の強みと感じるのは、ひとつは店舗での現場経験と、SNSなどをチェックして「流行りもの」を追うのが好きなところでしょうか。食品、ファッション、エンタメなど、単純にそれが楽しいということもありますが、仕事をしていると置かれた環境にこもりがちになるので、視野を広げること、常にアンテナを張ることを心がけています。NetflixやTikTokなどを消費者として楽しみつつ、人気の要因を探ったりしています。
消費者ニーズを把握する上では、データを分析したり、ソーシャルリスニングしたりすることはもちろん大事です。ただ、何より重要なのはそのファクトを咀嚼することだと思います。正解があるのかも分からない中で、自分である程度の仮説を持って動き出すことが絶対に必要です。そのためにも、あくまで自分が「一番の消費者」という視点は常に持って、普段の生活でもいろいろな情報をキャッチして、背景に何があるのか仮説を持つことを心がけています。
目標と呼べるか分かりませんが、「お客さまの一番の代弁者でありたい」と思っています。それはつまり、お客さまの共感を一番生み出せる存在でありたい、ということです。無印良品には、地域とお客さまを、商品やサービスで繋ぐプラットフォームのような役割があると思っていて、私自身もそうでありたいです。さまざまな価値観がある中で、押し付けるのではなく、寄り添った形で無印良品という価値を発信したいと考えています。
―― 貴重なお話をありがとうございました。
【上司の視点】「お客さまを見る」熱量と客観のバランス
向田 崇敬 氏
良品計画 食品部 事業統括担当部長
良品計画 食品部 事業統括担当部長
建石さんの素晴らしい点は、マーケティングの仕事の重みを理解しながら、責任感を持って成功に導きたいという強い想いがあることです。その想いが求心力となり、社内外で多くの仲間をつくり学びながら、自分のケイパビリティを驚くべきスピードで広げています。
特に「お客さまを見つめる」点においては、一消費者としての自分自身の熱量と、自分とは異なる価値観や生活習慣を持ったお客さまを見つめた時の客観性のバランスが、非常に優れています。
さらに、それを社内で伝える際に適切な言葉に言語化し、ステイクホルダーをワンチームにまとめ上げていく姿は、年齢や経験を問わず、既に社内外の規範になっています。
今後もスピード感を持ってさまざまなマーケティング活動に参画し、当社の次世代リーダーと して活躍してもらえることを楽しみにしています。
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