マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #02
マイケル・ポーターの戦略論は時代遅れ? GoogleやAppleなども実践する戦略スタイルの現在形とは
先見型・形成型・適応型の具体例
ポジショニング派(マイケル・ポーター)とリソース・ベースド・ビュー派(ジェイ・B・バーニー)や3Cなど、経営者にとって一般的な戦略フレームワークは、不確実性が低く、改変可能性が低い環境で有効なものであるとされています。
この事業環境において、マイケル・ポーターの戦略は古くはなく、今でも強い説得力があり、明快な洞察をもたらしてくれます。しかしながら、不確実性が高い事業環境や、改変可能性が高い事業環境においては、こういった戦略が適合しなくなる可能性が高いとリーブスらは指摘しています。
不確実性は低いが、改変可能性が高い事業環境においては、先行者になることを目指す「先見型」の戦略が適合します。具体例は、ジェフ・ベゾスが経営していた時代のAmazonや、デニス・ギリングスが経営していた時代に医療品開発のアウトソーシングを行うCRO(医薬品開発業務受託機関)を開拓したクインタイルズが挙げられます。
不確実性も改変可能性も高い事業環境では、まとめ役になることを目指す「形成型」の戦略が適合します。具体例は、スティーブ・ジョブスが経営していた時代のAppleや、ラース・レビアン・ソレンセンが経営していた時代に中国の糖尿病治療市場にいち早く取り組んだノボノルディスクが挙げられます。
そして、改変可能性は低いが不確実性が高い事業環境においては、速くなることを目指す「適応型」の戦略が適合します。具体例は、ウィリアム・マックナイトが経営していた時代の自主性を尊重し失敗を許容した3Mや、ナタラジャン・チャンドラセカランが繰り返される技術的なシフトに対して絶えず適応してきたタタ・コンサルタンシー・サービシズが挙げられます。
現代における「適応型」の重要性
これらの5つの戦略スタイルの中で、私が特に注目しているのは「適応型」です。
直近の四半世紀の間で急成長している企業の多くは、多様な方法を試し、データに基づいて検証し、その結果をもとに最適な選択をすることを積み重ねることで、個々の改善の幅は小さくても少しずつ積み上げて、大きなインパクトを生み出すことを得意としています。
さらに、新しい方法を検討するときに、戦略について長々とした議論を繰り返しながらシナリオを詰めていくのではなく、早めに具体のレベルに落としこんで検証し、その結果に基づく学習を速くするアプローチが採られています。
たとえばGoogleやAmazon、MetaやAppleのようなメガプラットフォーム企業は、5つの戦略スタイルにおいて、改変可能性が高い事業環境において、競合が少なく新規性の高い市場を開拓したり、自社が有利になるよう新たなエコシステムを形成したりする戦略シナリオを描き、展開しています。その点において、「先見型」や「形成型」に分類されるのでしょう。
一方で、これらのプレイヤーは「適応型」に該当する戦略スタイルも採っています。たとえば、戦略をMVP(Minimum Viable Product)や既存プロダクトの改訂版、新たに試してみようとするプロモーション施策のプロトタイプなど、具体に落としこんで実験を行い、その結果から学習を重ねることによって、他社よりも速く解像度を高め、最適化を推進させています。
このような企業は、生成AIが注目されるよりも前から実務の現場において活用が進んでいる、構造的な数値データを扱う予測AI(例:機械学習によるアップリフトモデリング)などを活用することにより、ひとつの施策あたり数%レベルの高い再現性を持つ最適化を積み重ね、結果として大きなインパクトを創出することに成功しています。