マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #02
マイケル・ポーターの戦略論は時代遅れ? GoogleやAppleなども実践する戦略スタイルの現在形とは
現代における「適応型」の重要性
この「適応型」の戦略スタイルに近い考え方が、筆者のマッキンゼー時代の上司で現在は京都先端科学大学教授である、名和高司先生が提唱する「学習優位」という概念です。リーブスらが提唱した「Navigating the Dozens of Different Strategy Options」より5年ほど前に、名和先生は以下のように提案していました。
「…いかに事前に分析し、仮説を立ててみたところで、顧客が実際にどう反応するかは、実践するまでわかりません。また、たとえ仮説が正しかったことが検証できたとしても、顧客側の環境に変化が起こると、それに合わせてこちら側も素早く適応していく必要があります。
このように需要が不確実で安定しない時代には、『競争優位』という理念先行型の戦略では、まったく歯が立ちません。先が読めないのであれば、まず実践してみて、そこで市場からフィードバックを得る。その結果を踏まえて、次の手を打つ。そのサイクルを繰り返すことによって初めて、見えないものが見えてくる。
このように、経験を積む(get familiar)ことで新しい知恵が生まれることを、『学習優位 (Familiarity Advantage) 』と呼びます」(名和 2010)
「適応型」の戦略スタイル、あるいは「学習優位」は世界のテック企業に限らず、自らが身を置く事業環境をコントロールするのが難しかったり、予想外の要因に左右されたりしている現実に直面する多くの企業に適合するはずです。立派な戦略シナリオを作成するよりも経営者自身の「やっている感」がないためなのか、経営者たちの間で意外と見逃されているように私は感じます。
長々とした議論を繰り返しながら立派な戦略のシナリオをつくることに割いている時間や資源の一部を、具体的なレベルに落としこんで実験するという新たな意思決定に、生成AIよりも実用的にこなれた予測AIを効果的に活用しながら取り組むことにシフトしてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
入山章栄(2024) 「連載 入山章栄の『世界標準の経営理論』第24回 ポーター vs. バーニー論争に決着はついている」 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー オンライン版』 2024.02.08〔https://dhbr.diamond.jp/articles/-/10227〕
McGahan, A. M. & Porter,M. E. (1997) “How Much Does Industry Matter, Really?” Strategic Management Journal, 18、15-30.
名和高司 (2010) 『学習優位の経営』 ダイヤモンド社。
Ohmae, Kenichi (1982) "The Strategic Triangle: A New Perspective on Business Unit Strategy." European Management Journal, 1(1), 38-48.
大前研一 (1984) 『ストラテジック・マインド』 ダイヤモンド社。
Reeves, Martin, Knut Haanaes, and Janmejaya Sinha (2015) "Navigating the Dozens of Different Strategy Options." Harvard Business Review, 93(6), 1-17. (「最善の戦略を見極めるための戦略は何か-BCGの「戦略パレット」活用法【前編】」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー オンライン版』 2015.12.18
〔https://dhbr.diamond.jp/articles/-/3862〕, 「伝統型」から「再生型」まで、事業環境から導く5つの戦略スタイル-BCGの「戦略パレット」活用法【後編】」 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー オンライン版』 2015.12.21 〔https://dhbr.diamond.jp/articles/-/3864〕)
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