TOP PLAYER INTERVIEW #81
初速が目標の3倍。シャウエッセン「夜味」誕生の秘話とは? 日本ハムが引き出した新たなインサイト
「焼き」解禁の背景
―― 狙い通りにXでの話題化を果たしたわけですが、実際に「夜に食べてもらう」という新しい行動を促す上で意識したことはありますか。
ひとつは、「夕食にウインナーを出すことへの抵抗感」を減らすことです。私たちはお客さまの食スタイルを研究しているのですが、特に大事にしているのは「VOC(Voice of Customer)」といって、お客さまと直接対話して行う定性調査です。その中で、「夜にシャウエッセンを召し上がらないのですか」と問いかけると、「そのままの形で夕食に出すと手抜き感が出てしまう」という回答がありました。
それなら、夜に食べてもらうのがベストな食べ方だということを訴求すれば、堂々と夕食に出せると考えたのです。「夜味」は濃厚な味にすることで、ご飯のおかずにしたり、炒飯に入れたりといった夜のメニューに十分に耐えられる商品に仕上げました。
さらに調理方法として「焼き」を解禁したのも、インサイトを踏まえた新しい試みです。これまでシャウエッセンは、旨みたっぷりの肉汁を守るために「ボイル」を推奨してきました。「ボイルして食べるのが一番おいしい、黄金の3分間ボイルです」と言い続け、社内でもシャウエッセンを焼いて出すと怒られるくらい、「焼き」はご法度とされてきました。
しかし、社員に自宅でのシャウエッセンの調理法を聞くと、なんと8割以上が「焼いた経験がある」ことが判明しました。一般の方々に調査をしても6割が焼いていて、3割がボイル、残り1割が電子レンジで調理していたのです。
そこで、「夜味」は敢えて「焼いて濃厚スパイスが引き立つ」と訴求し、焼いてもらうことで手抜き感や罪悪感を軽減してもらうことを狙いました。広告では「実は社内でもシャウエッセンを隠れて焼いて食べている人が多かった」と自虐的に伝えることで、関心も喚起しました。
従来のシャウエッセンはボイル調理を推奨しているが、「シャウエッセン 夜味」では「焼き調理」を推奨した広告
「夜にウインナーを出しにくい」という消費者の課題に対する回答として、このような広告を展開しました。実際にお客さまの課題を解決する商品や訴求ポイントを設計するのと同時に、話題にして拡散していただけるようなプロモーションを仕掛けることで、私たちの伝えたい価値をお伝えできると考えました。
シャウエッセンのプロモーションは「真面目にふざける」ことを追求しており、以前話題になった「シャウ、断髪。」の広告も、商品の包装に使用するプラスチック使用量を削減するため従来の巾着型パッケージを刷新するという真面目な取り組みですが、面白がっていただくことでより強くメッセージが伝わると考えました。
現代は、一方向のコミュニケーションではもはや伝わらない時代です。お客さまに近いところでコミュニケーションし、情報を拡散してもらうことがなければ、話題化も、その後の広がりもないのではないかと思います。