CATCH THE RISING STAR #26
TikTok100万回再生連発、ホリプロデジタルのZ世代マーケターのテクニックとは?【小島歩友氏】
バズ動画のテクニック、その先に目指すものは
――再生数を伸ばすために特に意識していることはありますか。
ヘアクリップの動画を例に具体的にご説明すると、まず「冒頭の2秒でいかに離脱を防ぐか?」が大事だと考えています。そのために動画冒頭では、画面を上下に分けてヘアアレンジのOKバージョンとNGバージョンを示し、この動画を見ると、何が得られるのかがわかるようにしました。また、動画の序盤で「初級」という言葉を出して、紹介される内容は多くても初級、中級、上級の3パターンまでだろうと予想させ、動画を最後まで見てもらうハードルを下げることも意識しています。情報を小出しにすることで、何秒見られたかという視聴維持率を上げるようにもしていますね。
それ以外にも、世間でヘアクリップの関心が高まり、検索数が増えている時期に動画を出したことなど、いくつもの工夫を積み重ねています。
―― そうした細かなノウハウは、自分で編み出したものですか。
自分ひとりではなく、普段から同じチームのメンバーやインターン生と「こういうやり方もあるのでは?」と意見交換しながらやっています。SNS運用の定石としてよく言われる手法も試しつつ、意見交換して出たアイデアも実際に試してみて、データや分析結果をチームに共有する。そうやってノウハウを蓄積していっていますね。
ただ、アカウント運用の最終目的は動画をバズらせることではなく、クライアントの商品を知ってもらうことや好きになってもらうことです。そのため動画の目的はクライアントごとに丁寧にヒアリングして、その都度、適切な指標を追うようにしています。たとえばアクセサリーブランドの運用においては、いいね数やコメント数、保存数などのエンゲージメントを重視しています。
――日々の仕事の中で、課題に感じていることはありますか。
先ほどもお話ししたように、正社員になって、よりクライアントと深く関わるようになったので、やりがいと共に難しさも感じています。
たとえば、最終的にはクライアントの方々が、自分たちでTikTokなどのSNS運用ができるようになることを目指す場合、TikTokは初心者という人も多いので、企画から撮影、編集のやり方まですべて教えます。その際、先方の手もできる限り動かしていただくことで、最初は動画編集に不安や抵抗感がある方も、一つひとつの工程の意味や、うまくできた時の成功体験、そしてメリットを感じていただけるようになるんです。そうしてTikTokを好きになっていただくことを意識してご支援しています。
また、タレントさんにTikTok動画に出演いただく場合もコミュニケーションを丁寧にとることを意識しています。多くの場合、非常に限られた時間内での撮影になりますし、テレビとは異なるTikTok独自の撮影に戸惑われる場合もあります。いかにタレントさんに楽しんでもらいながら、かつクイックに撮影ができるかを心がけています。
―― やりがいに感じることや、目標を教えてください。
やりがいを感じるのは、やはり成果が数字に表れたり、人に喜んでもらえたりした時ですね。クライアントはもちろん、コメント欄で「役に立った」「アクセサリーかわいい」といった反応があると嬉しく、やりがいを感じます。ホリプログループの企業で働いていると言うと、監督やカメラマンを目指しているのかと聞かれることもありますが、私にとっては、撮影や編集はあくまで、その先に得られる成果までの過程です。
目標としては、TikTok動画が瞬間的なエンタメとしてだけ消化されるのではなく、そこを入り口にして素敵な番組やコンテンツ、いろいろな人やモノ、コトの魅力を伝えていきたいです。たとえば『THE神業チャレンジ』は、TikTokが番組の視聴率アップの要因にもなっていると伺って、嬉しく思います。本来はすごく魅力があるコンテンツでも、多くの人に伝わりきらないことがあるため、間口を広げ、魅力を届けるメディアとしてSNSの活用法をどんどん磨いていきたいです。
―― 最後にご趣味を伺わせてください。
相変わらずエンタメが好きなので、いろいろなエンタメを吸収することでしょうか。音楽や映画、アニメなど、日頃からいろいろなコンテンツに触れていることが、企画やコンテンツづくりの糧になっていると思います。テレビも大好きですが、やはりSNSを見る時間のほうがずっと長いですね。TikTokやInstagramは寝る前に欠かさずチェックしています。SNSに関しては典型的な「Z世代」だと思います(笑)。
―― SNSは大好きだけれど、あくまでコンテンツの魅力を伝えるメディアのひとつというお話が印象に残りました。本日はありがとうございました。
【上司の視点】会議中にいきなりTikTok
久保山 裕 氏
ホリプロデジタルエンターテインメント 執行役員
ホリプロデジタルエンターテインメント 執行役員
小島さんが視聴者に届くコンテンツをつくることができている理由は、「誰よりも視聴者だから」です。業界にあるテクニックや「こうすべき」という定説はあくまで企業側のもの。視聴者はそんな事を意識せずに見ています。定説やある種の常識に囚われず、視聴者目線で動画をつくることができるのが、彼女の強みだと思います。
印象的なエピソードがあります。社内の会議中、クライアントの商品の話をしている時に、小島さんがいきなりスマホを取り出してTikTokを見始めたことがありました。
私だったら前職(広告会社のオプト)の癖で、事業環境の把握や商品の便益、消費者とのタッチポイント整理など「サイエンス」的なアプローチから始めます。しかし彼女はSNSから消費者の声やトレンドを把握するという、ある種の「アート」的なアプローチをしていてすごいなと思いました。
会社の方針として、ひとりのメンバーが基本的に制作から分析、顧客折衝まで全部を担うのは、マーケティングと制作を融合させるためです。顧客折衝・プランニング・映像制作・分析は、使う脳みそやスキルセットが大きく異なるため、一般的に職種が分かれています。ただ、マーケティング効果を追求する映像制作を行う場合、複数の仕事をそれぞれ別の人が進行するが故に、情報の鮮度や精度が落ちてしまい、どっちつかずになるパターンが多いです。
当社ではひとりが全工程を担うことで、顧客とのコミュニケーションから手触りのある情報を得て、トレンド情報やマーケティング思考を企画に生かし、そのプランをきめ細かく制作に反映し、投稿動画の効果を分析して、更に次に生かしていくというサイクルを回しています。
小島さんにはこれからも、たくさんの場数を踏んで「本物」になることを期待したいです。
SNSに携わる人でありがちなのが、目先の再生数などで思考が止まってしまうことです。「バズったからいいよね」ではなく「バズったからクライアントの事業にどういった価値を生み出せたか?」まで考えた上でのプランニングや顧客折衝ができるようになってほしい。そうすると人財として、クライアントに大きな価値提供ができて、より仕事が楽しくなると思います。
そのためには「合理的非合理」を許容すること。一見、意味がないと思われる深掘りや、自分が普段やらない業務に手を挙げてやってみる。そうした経験業務の幅がビジネスパーソンとしての多彩さに繋がっていくと思います。
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