新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #15
「ME:I」ら輩出のLAPONE崔信化社長の反対に負けない信念と『LAPOSTA』に込めた狙い
2025/01/28
崔社長の「覚悟」と「責任」
崔 LAPONEの活動の中で一番反対を受けたのが、コロナ禍の2021年4月に放送開始した『日プ』シーズン2の開催でした。101人の練習生に加え、スタッフも200人以上。もしコロナ感染者が出たら撮影が止まります。その場合どれくらい止まって、費用はいくらかかるか。試算したところ、ひとり感染者が出たら1カ月は撮影を中止し、数千万単位の費用が発生することも分かりました。その上で「3回は撮影中止があり得る」と想定して、開催に踏み切りました。僕以外、ほぼ全員が反対していましたね。
徳力 それでも押し通したのはなぜですか。
崔 大きかったのは当時のLAPONEには「JO1」しかいない、ということでした。コロナはもちろん大きなリスクですが、彼らに何かあった場合にJO1自体の運営に影響が出るのは当然ながら、会社自体が立ち行かなくなるリスクもありました。代償を覚悟してでも、会社としては前向きなリスクのほうを取ろうと判断しました。
しかし、やはり相当に苦労しました。感染対策を万全にとるのはもちろんのこと、密を避けるために大きな会場を抑える必要がありましたが、コロナ禍では貸してくれる会場がほとんどありません。遠方含めて、車で探し回った記憶があります。
徳力 すごい話ですね。その状況では守りに入って、既に人気のある「JO1」を大事に育てていこうという方向に流れやすいと思います。でもシーズン2を開催したからこそ「INI」が生まれ、多くのシングル曲がヒットしています。崔社長が決断していなかったら、今のような展開には繋がらなかったかもしれませんよね。
崔 結果として、INIという本当に素晴らしいグループができて、心からよかったと思っています。当時のことは、今もINIのメンバーと振り返って話すことがありますよ。
徳力 崔社長とアーティストの関係性も独特に見えますよね。何かの動画で社長が彼らに抱えられて登場しているのを拝見しました(笑)。すごく愛されているのが分かりましたね。
崔 ファンに怒られてしまうからダメだよ、と線引きするようにはしているんですが(苦笑)。僕も面白いことが好きなので、「社長も出たほうが絶対面白い」と言ってくれることもあります。今はグループが増えて、なかなか忙しくて現場で会える機会が減ってしまいましたが、アーティストとのコミュニケーションは大事にしています。
徳力 あまり社長や会社が露出するとアーティストにとって望ましくない、という考え方はありますよね。でも、2023年からはLAPONEのアーティスト全体とファンが一体になることを目的としたエンターテインメントイベント『LAPOSTA』(※)を開催されています。それぞれのグループだけでなく、LAPONEとしての特色を打ち出していくフェーズになった、ということですね。
(※)『LAPOSTA 2025 Supported by docomo』(以下『LAPOSTA 2025』)は2025年1月27日~2月2日にTOKYO DOME CITYエリア各施設で開催。
崔 「JO1」がデビューしたとき、いずれ彼らの後輩ができたら東京ドームで一緒にイベントができたらいいなと思い描いていました。『LAPOSTA 2025』の会場は念願の東京ドームです。
『LAPOSTA』はファンと一体となって盛り上がるのが最大の目的ですが、僕としては今回、2つの狙いがあります。ひとつはシンプルに「アーティストがやりたいことをやらせてあげたい」ということ。アーティスト自身が楽しければファンも楽しんでくれるはずという前提に立ち、あまり難しいことは考えず、バンドを組んだり他グループの楽曲をカバーしたり、基本的にはアーティストがやりたいことを聞いて実現することを重視しています。
もうひとつはステップアップです。NTTドコモさんたちと一緒に東京ドームでイベントをやらせてもらうことで、アーティストとしての段階がひとつ高まるタイミングでもあると認識しています。
徳力 本当にお祭りなんですね。人気が出るとやらなくてはいけないことばかりが増えますが、『LAPOSTA』ではアーティストたちに存分にやりたいことをやってもらおう、ということですね。
崔 特に『LAPOSTA 2025』では「SHOW PRODUCED by MEMBERS」というソロステージを設けました。アーティスト個人が限られた枠を使って、ファンに自分をどう表現するか、公演内容を自分で企画・プロデュースするものです。ルール内であれば何をやってもよく、DJをやったり、絵を描いて展示したりするアーティストもいる予定です。
これについては、楽しいばかりでなく、大変だと感じるアーティストもいるかもしれません。けれど、こういった経験もきっと、彼らの力になると信じています。ひょっとしたら将来、イベントの演出を担う人も出てくるかもしれませんし。
徳力 やりたいことをやる過程で、彼ら自身がプロデュース力やディレクション力といったことを学び、身に付ける機会にもなっているわけですね。素晴らしいです。
崔 一般的なアーティストはデビューするまでに下積み期間がありますが、LAPONEのアーティストはそういった下積みがない分、とても悩んでいると思うのです。事務所に所属しない人をオーディションで受け入れてデビューさせている手前、会社としても、僕自身としても責任が大きいと考えています。今売れているからいいのではなく、5年後、10年後もアーティストが食べていけるような状況をつくることがミッションでもあるのです。
アーティストたちが自分で企画・プロデュースする経験を重ねることで、自身の成長や考え方の変化に繋がればいいなと考えています。
徳力 先ほど、ファンのことを「ファミリー」とおっしゃっていましたが、お話を伺っていると、崔社長自身が誰よりもアーティストにとってファミリーに思えますね。アーティストやファンを何よりも大事にする会社だからこそ、『LAPOSTA 2025』にもNTTドコモをはじめとして、共感して支援する企業がいるんだろうと思います。
LAPONEの広がる世界に対して、企業にはどのように関わってほしいといったお考えはありますか。
崔 そうですね。何度か申し上げましたが、既存の素晴らしい会社はたくさんあります。でも、新しい会社だからこそできることもきっとあります。なので、一緒に新しい風をつくっていくというスタンスでいていただければ、嬉しく思いますね。
徳力 今日は貴重なインタビューの機会をありがとうございました。
【対談後記】
LAPONEは、日本の吉本興業と韓国のエンターテインメント企業であるCJ ENMの合弁会社として設立されたこともあり、私は勝手に設立時から成功が約束された会社なのかと思い込んでいましたが、崔社長のお話しを聞いて、完全に間違っていたことがよく分かりました。
崔社長を中心にLAPONEやアーティストの方々が、ファンとともに、ファンを信じて新しい挑戦を続けているからこそ、5年間で5つもの人気グループを生み出すことに成功しているのだと思います。
特に「応援広告」の文化は、崔社長とLAPONEの挑戦がなければ、日本でまだ始まっていない可能性すらあったと思います。
崔社長とLAPONEの新しいことに挑戦し続ける姿勢が、これからもさまざまな日本の応援文化を良い方向に変えていってくれることを期待したいです。(徳力基彦)
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