TOP PLAYER INTERVIEW #85

欧米でB2Bマーケターが消える…? B2Bマーケ一筋35年・シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏が見通す日本の生存戦略

 

生産性を上げられないたったひとつの理由


―― 現在の日本のB2B企業が抱える課題はなんでしょうか。

 マーケティングの観点からすると、今の日本企業にはさまざまな問題が起こっています。売上は上がっても利益が伸びない。外国の投資家はよく「コングロマリットディスカウント」を指摘します。事業が多角化し過ぎて、ある事業がヒットしても全体に対するインパクトが少ない。こういった理由から日本企業の株価はグローバルで見ると非常に安くなっており、海外の株主からは不採算事業の売却や選択と集中を迫られています。

 もうひとつ、日本企業の大きな問題は営業生産性の低さです。優秀な営業マンほど外資系に転職してしまうのも、そこに要因があります。

 2023年2月にNTT(日本電信電話)の島田明CEOが自社について「GAFA予備校と呼ぶ方もいる」と発言して話題になりました。驚きましたが実際、その傾向は見られます。

 なぜ日本の大企業でそんな事態が起こっているか。営業とマーケティングとカスタマーサクセスがしっかり連携できていない日本企業は、営業生産性とそれに連動する給与の面で外資系に圧倒的に差をつけられ、優秀な営業マンの転職を止めることができません。この流れに歯止めをかけるには生産性を上げるしかありませんが、日本企業の生産性が上がらないたったひとつの理由、それはマーケティングの不在にあります。

 マーケティングの仕組みがなく、ナレッジもありません。日本企業、特にB2B企業の唯一の弱点がマーケティングなのです。

 日本企業のマーケティングは欧米に比べて15年は遅れています。15年もの遅れを一気に巻き返すのは不可能ですが、日本企業は技術力、革新性、安定生産性、自社へのロイヤリティの高さなど、他の面では世界トップクラスです。世界中でリスペクトもされています。マーケティングさえ改善すれば、まだまだ輝けるのです。

 たとえるなら、大半の科目で偏差値70近くを取っている人が、英語だけ偏差値40という状態です。大学受験で英語だけが足を引っ張って、志望の大学に入れない。それなら苦手な英語をせめて60まで引き上げれば、見える景色がだいぶ違うはずです。これが日本のB2B企業におけるマーケティングなのです。

 先ほど、欧米企業で次々とマーケターが削減されているという話をしましたが、皮肉なことに、もともと削れるほどのリソースをマーケティングに割いてこなかった日本企業は、そこまでの影響を受けません。欧米企業のマーケティングが減速している今こそ、彼らに追いつく千載一遇のチャンスのはずです。ABMを突き詰めれば、世界のトップに立てる企業もあるのではと私は思っています。

―― 先ほど、日本のB2B企業にはABMが重要だと話されました。しかし、選択と集中を必要とするABMは日本では心理的抵抗が大きそうです。ABMを実行するのは経営層の判断になると思いますが、どのような基準で判断すればいいのでしょうか。

 簡単です。日本企業はまだまだトップライン(損益計算書の売上高)を見ますが、売上でなく利益を見るようにすればいいのです。この見方とマーケティングに対する考え方を含め、経営層のマインドセットを変えるのが一番大事です。

 日本初のB2Bに特化したマーケティング支援企業であるシンフォニーマーケティングは長年、現場のオペレーション層を主な対象として研修などを行ない、マーケティングのナレッジを身に付けてもらってきましたが、現在はマネジメント層のレベルアップに力を入れています。今後はさらに、経営層にマーケティングの基礎やマインドを理解していただくことが重要になると思っています。

 と言うのは、日本では戦後50年以上、マーケティングが必要ない状態が続いていました。戦後の復興期から国主導で行われた護送船団方式によって、既存のお得意様との「引き合い依存」を続けていれば、B2B企業は前年を上回る利益を得ることができていたのです。

 今、B2B企業トップ層にいる人はそのような、マーケティングを必要としない時代に入社して出世した人が大半で、知識も経験もほとんどありません。日本企業でようやくマーケティング部署が設立され始めたのは5~10年ほど前ですから、DNAレベルで「マーケティング不在」と言っていいでしょう。
  
123RF


※後編に続く
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