創造的思考の源泉とマーケティング #07

「オール良し」は受け入れられない。日清食品のカオスなテレビCMに隠された論理とおもしろさ【日清食品ホールディングス 宣伝部長 米山慎一郎氏】

 

「論理」と「おもしろさ」のスイッチ


萩原 先ほど「見ている人を意識する」というお話がありましたが、メディアごとに何か変えたりしているのですか。
 
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長
萩原 幸也 氏

  山梨生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後(株)リクルート入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員。武蔵野美術大学大学校友会 会長。JAA 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員。県庁公認山梨大使。

米山 それは、まさに課題として取り組んでいるところです。今はテレビCMをそのままYouTubeやTVerなど、他のメディアに流すことが多いのですが、クリエイティブやメッセージを変えていかないといけないと思って日々研究しています。それに付随して、メディアプランも変えていく必要があると思っています。

萩原 それは、弊社でもそうです。でも、日清食品さんのテレビCMは圧倒的にネット受けしています。一見尖っていることに取り組んでいるように見えても、根源的なところはきちんとマスに向けられているので、変える必要はないという気もしますが。

米山 いや、根源的な部分は「日清食品」に向いているんです(笑)。もちろんマーケティングなので消費者についても考えますし、世の中でヒットしていることがなぜヒットしているのかを考えて分析もします。でも、根源は自分たちが楽しければいいという感覚があるかもしれません。

萩原 なるほど。根源的には日清食品さん自身に向いているんですね。

米山 はい。1週間に1回ある社長との定例ミーティングで笑いが起こった広告は、必ずといっていいほどヒットします。だから、そんなに難しいことではないんですよ。

萩原 たしかに、仕事として取り組もうとすると、難しく考えすぎてしまうところがありますよね。

米山 そうですね。社長と佐藤可士和さんと一緒につくった「カレーメシ」の初代テレビCMは、商品がそれまでの世の中になかったようなエポックメイキングなものだったので、言いたいことがたくさんありました。

たとえば、お米であること、カレーライスだけれどルーとご飯が混ざっている新しいカレーであること、いろいろな種類があること、水を入れてレンジでチンしてつくること、小さいパッケージに入っているけれどおにぎり2個分程度のボリュームがあり食事として満足でることなど、挙げるときりがありません。

では、それをすべて言おうとすると、広告としておもしろさがあるのかどうかは疑問でした。そのときに出てきたのが、昔の「カレー」のテレビCMでした。白黒テレビの時代のCMですが、いろいろなことをしゃべっているけど面白かったなと思い、それの現代版をつくろうということになりました。
 
日清カレーメシ|2014 「カレーメシ登場」篇

「カレーメシ」のコミュニケーションのコンセプトは「カオス」です。いろいろなギミックを盛り込んで、マーケティング的に言いたいこともすべて盛り込んでテレビCMに仕上げていきました。

冒頭は「お腹減ったなぁ」と、つぶやく子どもの背後から背景のパネルを破って「カレーメシ」のキャラクターが登場します。裏話をお話しすると、出演している子どもにはそのことを伝えずに撮影しました。だから、1テイクしか撮ってないんですよ。マーケティングとして言いたいことをしっかりと伝えながら、そこにカオスを盛り込んで、おもしろいかということに挑戦したんです。

萩原 一見、いきなりカオスになったように感じるけれど、きちんと「論理」と「おもしろさ」のスイッチがあったということですよね。

米山 そうですね。カオスの中にもスイッチとなる仕掛けをしました。

萩原 今回のテーマは、「スイッチ」ですね。
  

米山 みんな汗かきながら考えていて、漠然と並列でやってしまっているんですよね。繰り返しになりますが、「論理」と「おもしろさ」を並行して考えるのではなく、自ら意識的に右脳と左脳のスイッチを入れ替える必要があると思います。

萩原 それで、どちらかに偏ってしまうんですよね。

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