マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #03
ChatGPTやGeminiなどの生成AIで人間の創造性は本当に高まるのか? マーケターが壁打ち相手として意識すべきポイントを解説
「他者」の存在が創造的な思考を促進させる
今回のテーマについて考えるヒントは、認知科学の領域でいくつか見つけることができます。認知科学によると、創造的な思考を促進させるための鍵は、「他者」の存在にあるようです。
ここからはさまざまな論文をもとに解説していきます。清河・伊澤・植田(2007)は、4つの木製のピースを組み合わせてT字型を作る「Tパズル」に取り組んでもらう実験を、次の3つのグループを設定して行いました。
1. 個人条件:ひとりでパズルを解く
2. 他者観察条件:2人1組のペアで、まず自分が一定時間試行錯誤し、その後パートナーと交代し、パートナーの試行錯誤の映像をディスプレイ経由で一定時間観察するというサイクルを繰り返す
3. 自己観察条件:まず自分が一定時間試行錯誤し、その後自分自身の試行錯誤の映像をディスプレイ経由で一定時間観察するというサイクルを繰り返す
その結果、「他者観察条件」が「個人条件」や「自己観察条件」よりも短い時間で正解にたどり着きました。

この実験結果に対して、阿部(2019)はそれ以前の認知科学の研究からの発見も踏まえて、2つのアプローチによって解釈しています。
ひとつは、他者が存在することで自分が考えている解決法とは異なる視点や意見に触れることができ、その結果、自らの思考の制約に気づく機会が生まれるという「制約論的アプローチ」です。もうひとつは、他者が存在することで相手の視点を意識した対話を行おうとする態度が形成され、その結果、問題を多角的に捉え直そうとし、自らの思考を再解釈する機会が生まれるという「問題空間アプローチ」があります。
これらのアプローチを生成AIチャットによる「壁打ち」に当てはめると、生成AIチャットには基本的な情報を下調べしてもらい、それを見ながら人間が発想を広げる方法や、人間が自分の知っている基本的な情報を生成AIチャットに説明して、それに基づいて生成AIチャットに発想を広げてもらう方法があります。これらにより、自分が考えている解決法とは異なる視点や意見に触れることができます。その結果、自らの思考の制約に気づくというメカニズムが「制約論的アプローチ」となります。
一方で、「生成AIチャットに話し相手になってもらう」ことにより、生成AIチャットの視点を意識した対話を行おうとする態度が形成されます。その結果、問題を多角的に捉え直そうとし、自らの思考を再解釈する機会が生まれるというメカニズムが「問題空間アプローチ」と言えるでしょう。
これらの2つのアプローチの中で、どちらが創造的な思考を促進させることにより貢献しているのでしょうか。