CATCH THE RISING STAR #28

レトロフェア「喫茶ファミマ」立案の若手マーケターが気づいた「ボンヤリしたコンセプトだとボンヤリしたものしかできない」【大谷萌氏】

 

レトロ企画が採用!でも…


―― 持ち前の企画力が生きた場面はありますか?

 2023年にマーケティング本部で「自主提案」という、メンバーがやりたい企画を一斉に出すコンペのようなものが初めて行われて、私が提案した「レトロ喫茶」が採用されました。正直、そこまで深くつくりこんだアイデアではなく、「流行っているしハマりそうだな」と思って、簡単な資料をつくって提案したのですが…。分かりやすいコンセプトだったのが評価されたのかもしれません。

 他にも喫茶店風のアイデアを出したメンバーがいたので、一緒に進めることになりました。「ゴディバのフラッペを売ろう」など商品ありきでプロモーションを考えることも多いですが、今回は販促物用の最低限の予算だけは与えられているという状態です。あとは「必要だからこれをください」と、交渉次第です。

―― 予算だけ与えられて、あとは自分たちで企画を進めるんですね。

 はい。伴走してくれる広告会社さんはいますが、根幹となる商品開発など、ベースとなる部分は自分たちで考えるしかありません。商品部と掛け合って、思い描いていた商品の理想と、原料や採算性といった観点からの現実とのギャップに、途方に暮れたこともありました。最初は魅力的に思えた企画でも、進めていくと実際のニーズと合っていなかったり、インサイトを捉えられていなかったり、途中でチグハグになったりして、やり直しになった瞬間もありました。それもあって実現まで時間がかかってしまいました。

―― すごくリアルなお話です。具体的にどんな課題があったのですか。

 特に難しかったのはインサイトの深掘りとコンセプトの共通言語化です。「レトロ」はあちこちで見かけるワードですが、イメージするものは人によって違います。「昭和レトロ」に加えて「平成レトロ」も出てきたし、しかも最近は韓国の新しいファッションムーブメントである「ニュートロ」(新しいレトロ)も10~20代の間にじわじわと広がってきていました。一時期、その「ニュートロ」と「レトロ」の対立構造にする、という方向になったこともありましたが、「ニュートロ」の概念は日本ではまだ新しすぎて、うまく説明できません。

 コンセプトやインサイトの深掘りが中途半端なまま、ビジュアルや商品に落とし込んでも、わけが分からなくなってしまいます。結局は、もともとファミマで人気のある固めのプリンを見て、この商品が売れているという事実が「レトロ喫茶」のニーズを表していると考え直しました。「レトロ喫茶フェア」というコンセプトも、最初は「ひねりがない」と思って色々と考えたけれど、基本に忠実に進めるのがベストだと判断しました。遠回りしたけれど、「ボンヤリしていると、ボンヤリしたものしかできない」ことを、身をもって学んだ経験でした。

 反省は、「レトロとは何か?」を最初に深掘りしてから始めればよかったということです。コンセプトを共通言語化してチームで統一しなければ、周囲は「協力してあげたいけれど、何をしたらいいか分からない」となってしまいます。

―― 大事な教訓だと思います。結果、「喫茶ファミマ」はいかがでしたか。

 1年以上かかって、2024年7月にようやく実現できました。幅広い世代に楽しんでもらえるよう、懐かしさと新しさを融合した「ナツカシ、アタラシ、オイシ!」をコンセプトにして、レトロな喫茶店をモチーフとしたスイーツやドリンク、お菓子など6種類の商品を全国発売しました。

 結果としては、従来から人気の高かった固めのプリンはパッケージをレトロ喫茶風にアップデートすることでよく売れました。今回のために開発した新商品も概ね好評をいただき、うれしかったですが、なによりも勉強になったのは、既存の商品でも企画に乗せることであらためてお客さまに興味をもっていただき、購入につながっていく、ということです。今あるものにニュース性や付加価値を与えることの重要性を感じました。

 今回はニーズの高いクリームソーダ風の商品が多くなりましたが、できれば今後は「喫茶ファミマ」を毎年恒例のキャンペーンに育てて、今回はチャレンジできなかったパスタなどにも手を伸ばしてみるのが目標です。「ニューレトロ」のトレンドも本格化してくると思うので、これをきちんと形にして喫茶ファミマに乗せられれば、今回の遠回りも報われるかな、と思います。
 
 
画像提供:ファミリーマート

―― コンビニのマーケティングの特性をどのように考えますか。ご自身の個性や感性を生かせる部分はありますか?

 まだマーケティングを語れるほどの経験はありませんが…。メーカーなどと違い、コンビニの場合は1週間に何十個と新商品が出て、1カ月で売り切るほどのペースなので、PDCAを回すのがかなり早いです。PRや販促物についても同様で、店頭の大きなポスターは3週間おきに入れ替えて毎回、認知率を調べています。定性調査の結果とも併せて、「今回は色が良くなかった」「おにぎりが美味しそうに見えなかった」といった知見がどんどん蓄積されていきます。

 PRの業務では、どんな商材やキャンペーンでも過去に似たような取り組みをしているケースが多く、そのデータや反省を生かしながらより良くアップデートをしていくのが基本になります。一方で、パブリシティーの獲得は世の中の情勢に大きく左右されるので、同じようなキャンペーンでも表現を変えたり、競合他社にも目を光らせながら、差別化したり、乗れるところは乗ったりします。そういった機微は、自分が世の中の動きやトレンドにキャッチアップしないと出せないと思っています。

 実務をしていると、その都度プッシュしたい商品やキャンペーンはバラバラなのですが、ベースとなるトンマナを抑えたアウトプットをすることで、「ファミリーマートっていつも何か面白いことをやっているな」という空気感をつくっていきたいです。

 コンビニは「近さ」が肝だと思いますが、帰り道にわざわざ反対方向のファミマに寄って欲しい。PRのミッションは、ファミリーマートのファンを増やすことです。そのために自分ができることを考えて仕事をしています。

―― 最初は「小さい会社に入りたい」と思っていたのに、今は大企業の中枢でバリバリ働いて、ギャップを感じませんか。リフレッシュ方法などはあるのでしょうか。

 ファミリーマートは大きい会社ですが、マーケティング本部は足立をはじめとして外部から来た人も多く、「やりたいことに挑戦してみよう」「チャレンジする方のコンビニ!」という機運が高くて、楽しく仕事をさせてもらっています。

 リフレッシュと言いますか…。今は週3回くらいムエタイに通っていて、まだまだヘナチョコなんですが、そろそろ試合にも出てみようかなと思っています。もともとプロレス観戦が好きで、自分でも戦ってみたくなったんです。

―― 最後にちょっと意外なお話を伺えました(笑)。本日はありがとうございました。
 

【上司の視点】センスがどんどん磨かれる

 
橋本 剛 氏
ファミリーマート マーケティング本部メディア&プロモーション改革推進部部長

 大谷さんには主に「ファミリーマートニュース量の拡大」をミッションに、そのために年間のPR計画(+目標値)の策定、および各企画のエグゼキューションをお願いしています。社内外ともに、広く深くコミュニケーションをとり続ける必要がありますし、また何より、世の中のモーメントを「ん?これは?」と感度高くすぐにキャッチし、その行間を想定し取り入れることも担ってくれています。

 生来、興味関心・感度が高いこともあるのでしょうが、PR制作会社さんや企業のPRマーケティング関係者との関係値をしっかりつくって知見を蓄積したり、さまざまな情報が集まるような努力をしたりしてくれています。極めてコミュニケーション能力が高く、またとても機微に触れる力が強いので、そういうことによって、どんどんセンスが磨かれていっているのではないかなと感じています。もちろんスマホも相当の時間見ているようです(笑)。

 また、感情とロジックを感覚的に組み合わせられるので、それを言語化・文字化して、マーケティング本部全員へ知見共有をしてくれることも、属人的にならず、組織としてのリテラシー向上に寄与するのでとても助かっています。来期も高い目標が待っていますので、過去からの改善と、よりジャンプしたアイデアやコミュニケーション手法を駆使して、ぜひ達成してもらいたいです。できると思っています。

 ファミリーマートのマーケティングとしましては、一つひとつの企画や発信の仕方、細かな表現の語尾などの積み重ねがブランドづくりの構築過程になります。また、ブランドを印象付ける重要な要素はお客さまが日々接するお店にありますから、加盟店のスタッフさんたちも楽しんで取り組めるような企画を発信していければ、その速度は格段に早まっていくと思っています。まずは皆が同じ絵と地図を見られるように戦略を立て、そして戦術はPDCAを高速で回してそこから得られるラーニングからロジカルに合理的な選択を、そして最後は思いっきりクリエイティブ転換できるようなメンバーの育成がカギだと思っています。
  
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