プロマーケターの倫理と資本主義の精神~広告苦情50年の歴史から~ #05

市場を「良き企て」であふれさせるために。JARO事務局長が信じるプロフェッショナル・マーケターの条件【川名周】

 

マーケティング=Market+Ing


 さて、最後にもうひとつ、マーケターの読者の皆さんに考えていただきたいことがあります。前項で、私は敢えて「企てた施策」という言い方をしました。なぜでしょうか。そこには私が考えるマーケティングの本質が込められています。

「MARKETING」とは文字どおり、「Market(市場という名詞、もしくは市場で売るという動詞)」にINGをつけた名詞です。

「経済学の父」と呼ばれる英国のアダム・スミスは18世紀、『国富論』の中で有名な「(神の)見えざる手」に言及しました。これは市場経済においては、各人が自己利益を自由に追求しても、需要と供給による市場の調整によって、結果として社会全体の利益に繋がるという考え方で、現在の経済学の基礎になっています。動詞の「Market=市場で売る」部分に該当します。

 しかし、20世紀の米国を中心に、需要と供給によって自ずと決定される域を超えて、売上が上がるものとそうでないものがあるということに気付く人が現れます。市場には何らかの「作為」や「企て」が働いている。つまりINGの部分です。この「作為」や「企て」のありようを研究し、一個の学問領域として打ち立てたのがフィリップ・コトラーやエドモンド・ジェローム・マッカーシーといった著名なマーケティング学者たちです。

 マーケティングは「マーケット+ING」。つまり「企て」や「作為」によってマーケットに働きかけて商品・サービスを売っていく諸活動というのが私のマーケティングの解釈です。

 プロマーケターは、本来的に作為性を持つマーケティングに、常に倫理を伴って取り組まなければなりません。それは広告会社のマーケターとして長年この業界で生き、「良き作為」「良き企て」を仕掛けることで市場の成功に繋げてきた、諸先輩たちの背中を見て実感することです。

 マーケティングが作為性を伴う以上、独善的になったり、売るという目的に忠実になればなるほど、法律スレスレ(時にはそれを超えて)の作為になったりする宿命を持ちます。だから「良い作為」を常に心がけなくてはいけないのです。

 では「どこからが良い作為で、どこからが悪い作為か」と問われると、ケース・バイ・ケースというのがお答えになります。

 たとえばマーケターにとって、自社の商品やサービスについて「〇〇〇の市場でNo.1」と謳うことは鉄則のひとつです。全国シェアで1位であればマーケットリーダーですが、チャレンジャーの立場なら、新しく伸びていく〇〇〇市場を見つけて、そこでNo.1であることを訴求することで、逆転を狙えるからです。

 しかし、昨今の広告市場で起きているのは「デッチあげのNo.1」の訴求です。お金を支払ってインターネットのイメージ調査でNo.1をつくり、そのデータを販売する手法が横行しています。これでは悪い作為です。実際に商品を使ったことがない人も調査対象にして、選ばせたいブランドを選択肢の一番上に固定するなどの強引な方法で、客観的裏付けのないNo.1を「顧客満足度No.1」「口コミ評価No.1」などと訴求するわけですから、景品表示法の「優良誤認」にあたり、2024年には消費者庁による事業会社への再発防止などの措置命令が相次ぎました。

 最近は「No.1」などの最上級表現を避けて「顧客満足度99%」といった高評価表示に変えるケースも増えていますが、根っこは同じです。作為的にNo.1を生み出すこと自体はマーケティングの手法ですが、客観的に公平な調査に基づいているかどうか、正しく判断する必要があります。

「良き作為」と「悪き作為」を分ける境界は、抽象的になりますが、マーケターの心の中にあります。それを自分で律して考えられる。「良き作為」をフェアに市場で戦わせる。結果を出す。それがプロフェッショナル・マーケターであり、マーケターという職種を続けていく上での醍醐味ではないでしょうか。

 日本のマーケティング業界、広告業界がこれからも「良き作為」「良き企て」であふれることを切に願います。そのためにJAROも広告・表示の適正化を推進していきます。また、この連載を読まれた皆さまが、それぞれの持ち場で「良い企て」「良い作為」を心がけてくださることを望んでいます。

最終回のポイント
□マーケティングとはMarket+ING。何かしらの作為性のある行為が伴う。
□プロフェショナル・マーケターとは売上も倫理も両立できる人。
□「良き企て」でフェアに勝てる人がプロフェッショナル・マーケター。
□市場が「良き作為」「良き企て」の競争であふれるようにJAROも活動を続ける。

※東京汐留にあるアドミュージアム東京で開催される特別展「愛と苦情の広告史」(2025年4月29日から6月14日まで)にて、JARO「苦情の50年史」の展示が予定されています。「50年の苦情年表」等、体感型コンテンツとなっておりますので、ぜひ足をお運びいただけますと幸いです。
※記事中の画像はJARO提供。
 
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