CATCH THE RISING STAR #29

JTBに「顧客中心主義」を広げる若手マーケター、人流止まったコロナ禍で見えたもの【今井希氏】

 

コロナ禍で得たもの


―― 旅行業界は、新型コロナウイルスの影響を避けられなかったのではと思います。コロナ禍の初期は法人営業だったと思いますが、どう振り返りますか。

 コロナが流行し始めた2020年の年明けは、法人営業としてお客さまの旅行に同行していた頃でした。JTBの営業はお客さまの旅行の中身を一番よく分かっているので、ガイドさんとは別に、裏方として同行することが多いのです。私も海外旅行の添乗から戻った直後から人流が止まり、出社もできないという状態になっていました。

 現場で営業してきた私たちにとっては、お客さまにご購入いただけるものがないわけですから、最初の数カ月は途方に暮れていました。ですが、事業部内でも「このままじゃいけない」となり、お客さまの課題など企業分析にかける時間を多くとりました。そうしているうちにオンラインミーティングがコミュニケーションの主流となり、お客さま向けにもこれまでのリアルではなくオンラインでのイベント開催を訴求する方針に切り替えていきました。

 人と会えない不安もあって、正直、会社は大丈夫なのかなと心配した時期もありました。ただ、その分、自分がこの会社で何をしたいかを、改めて考えるきっかけになりました。本を読んだり、デジタルスキルを磨いたり、企業分析やデータの重要性、カスタマーセントリック(顧客中心主義)な思考を身につけたいと思う良い機会にもなりました。

 今思うと、この時期があったからこそ、マーケティングの根本である「お客さまの悩みは何か」という問いに向き合い、「今できることをやろう」というポジティブな気持ちになれたのではないかと思います。

―― コロナ禍の経験が、マーケターとしての原点にもなっているのですね。現在の業務で課題に感じることはありますか。

 会社全体の話になりますが、私たちはこれまで以上に「実感価値」を重視していく方針です。企業側にとっての価値ではなく、お客さまが「JTBに頼んでよかった」と実感してくださる価値の向上です。ここで、マーケティングが果たす役割は大きいと思っています。

 この実感価値を向上し続けるために、お客さまに喜んでいただき、購入し続けていただける仕組みをつくことが大切だと思います。

 その第一歩として、マーケティングに関わる社員だけではなく、グループ全社員が、顧客起点であらゆる企業活動を行えるようなマーケティング思考を啓発していきたいと考えています。

 JTBが既に持っている強固な営業力や商品開発力にマーケティング思考が加われば、もっと底上げされます。会社の規模が大きいので一人ひとりに向き合っていくには限界がある中で、どのようにカスタマーセントリックなマーケティング思考を社内に伝えていけるか、頭を悩ませながらチームでディスカッションしています。

―― 会社全体にマーケティングを浸透させるという大きな目標に向かって、ご自身が磨きたいスキルや課題はありますか?

 マーケティングの環境整備や戦略を進めるには、ベーシックなマーケティングの知識に加えて、海外を含めた先進的なマーケティング事例やデジタルマーケティング、新しいツールやテクノロジーの知識の習得がマストになります。ただ正直、私自身のインプットがまだまだ追いついていません。また、社内では若手という位置づけなので、他部署の方々に相対する際に納得してもらうためのロジカルなコミュニケーション力も磨いていきたいです。

―― ご自身の性格や趣味で、業務に生かされていると思うことはありますか?

 好きになると、とことん深掘りするタイプで、趣味は推し活です。アイドルグループの全国ツアーにも行っています。「熱しやすく冷めにくい」性格は、案外、マーケティングの業務に合っている気がします。

 あとは、移動途中に屋外広告を見ると、「ここに『交流創造』の広告を置いたら旅行者やビジネスパーソンの目を引きそうだな…」と考えたりしますね。

―― 日常にマーケター目線が染み付いていますね。マーケティングに情熱を感じていることが伝わってきます。今後の目標を教えてください。

 私が以前イメージしていたマーケティングは、テレビCMなどのプロモーションを中心とした華やかな世界でした。でもB2Bマーケティングを2年担当して、関係部門とディスカッションしながらつくった施策がなかなか反応を得られなくて、苦しくなることもありましたが、ときに目の前がパッと開けるような成果が生まれることもあったりして、そんなある意味で「泥臭さ」を実感できました。

 今の部署では、外部から来られたプロフェッショナルのマーケターの方々とディスカッションして、自分や会社の中に新しい思考が生まれていく感覚や、「これもマーケティングなんだ」という繋がりや奥深さを実感し、楽しさを感じています。

 個人的な目標としては、マーケティングを自分のスキルとして磨き上げ、それを使って会社にどう貢献できるかを突き詰めて「尖って」いきたいです。ゆくゆくは「JTBは営業も強いけれど、マーケティングも強い」と言われたり、JTBの良さがマーケティング力と掛け合わさって世の中に知られたりする会社になることに貢献したいと思います。

―― 会社の変革期にマーケターとして立ち合えるのは、やりがいがありますね。本日はありがとうございました。
  
 

【上司の視点】変革を導くマーケターへ

 
風口 悦子 氏
JTB 執行役員ブランド・マーケティング・広報担当 兼 CMO

 JTBグループのマーケティング機能を再設計・最適化するため、昨年コーポレートマーケティング部門を立ち上げ、今井さんに着任いただきました。これまでのビジネスソリューション領域での営業と事業マーケティングの経験が、各所で発揮されています。

 マーケターにとって重要な適性である、顧客理解の深化、データドリブンの思考を強化していくこと、そして技術トレンドへの感度が高いことは今井さんの強みです。現在リードいただいているマーケティングオペレーション(MOps)の高度化を通じ、マーケティング施策の効果を定量的に測定・分析し、得られたインサイトを基に戦略を継続的に改善していくことが組織に根付くことをともに実現してまいりましょう。

 また、B2Bマーケティングでは、顧客との長期的な関係構築が鍵です。一貫したコミュニケーションと価値創出を通じて信頼関係を築き、他部門と密に連携しながら全社的な視点でマーケティング戦略を立案・実行する人財として、コーポレートマーケティングの未来を担う存在になってほしいと考えています。

 既存の枠組みにとらわれず、新しい発想で事業を変革していく役割を果たすため、好奇心を持って興味を抱いたことに対して実際に行動を起こし、小さな実験から始めてチャレンジしてください。失敗を恐れずに学びを得ながら前進することで、革新的なマーケターとして成長し、企業の未来を切り拓く原動力となることを期待しています。
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