新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #16

紅白プロデューサーが目指すNHK音楽番組の未来。YOASOBI、B’zのスーパーパフォーマンスが生まれた舞台裏とは?

 

「紅白しかできない」を積み上げる


徳力 朝ドラの主題歌を歌っていることから、B’zの出演自体は事前に予想する記事も多数出ていましたが、「イルミネーション」の後にステージに現れ、「LOVE PHANTOM」「ultra soul」を披露したのには誰もが驚きました。2024年の紅白はさらに、藤井風さんや米津玄師さんのパフォーマンスも圧巻でしたね。

加藤  B’zは歴代の紅白プロデューサーがアタックし続け、遂に実現しました。ただ、こういったスペシャルな方に出ていただくには、それなりの演出が必要です。長年開催していると、視聴者の心を動かす演出はたいていやり尽くされてしまっていて、毎回、本当に頭を悩ませます。ライブならではの高揚感や観客の反応をどう視聴者に伝えるか。ピークをどのように持っていくか。マスコミにはよく「リハーサル厳戒態勢」と言われ、予想記事がたくさん出たりしますが、大きなサプライズを生み出すためには事前の情報管理を含めた「駆け引き」も必要だと思っています。

ここ数年、民放テレビ局も音楽番組に力を入れはじめ、競争が激しくなっています。その中で紅白に対するハードルは年々上がっていて、「紅白でしかできない」と思える企画をどれだけ積み上げられるかが勝負です。内部では、ひそかに「プロレス」と呼んでいます(笑)。

徳力 視聴者サイドだけでなく、アーティストからしても発信の選択肢が増えて、必ずしも紅白にこだわる必要性はないわけですね。そのなかで唯一無二の企画を生み出すために、どのような取り組みをしているのですか。たとえば2023年の紅白で、YOASOBIが何組ものアーティストとコラボしたステージは、まさに紅白でしか絶対に見られないと思いました。

加藤  YOASOBIは「アイドル」が国民的ヒットソングとなり、『NHK MUSIC EXPO 2023』という特集番組を立ち上げたとき、ぜひ出てほしいと考えました。多忙なので出演が難しいかもと予想されたのですが、「NewJeansが来るなら」と承諾してくれ、日韓トップアーティストの共演が叶いました。このような場をつくれたことが、紅白でのあのコラボパフォーマンスにも繋がったのではないかと思います。

徳力 YOASOBIのAyaseさんはNewJeansに刺激を受けている旨のX投稿をしていましたし、『NHK MUSIC EXPO 2023』でも2組のトークが話題になっていましたね。紅白は単体の番組に考えがちですが、他の音楽番組での積み重ねがあってこそのプロジェクトなのですね。

加藤 NHKの主要音楽番組には歌謡曲中心の「うたコン」、ニューミュージック系の「SONGS」、アイドルポップス系の「Venue 101」の3番組があり、さらにNHKミュージックスペシャルといった特集番組があります。年末の紅白に向けてはこれらのチームが連携して、アーティストとの信頼関係や実績を積み上げていくのです。
  
画像引用:NHK公式サイト

徳力 デジタル活用に話が戻りますが、韓国や米国ではアーティストのパフォーマンス映像が当たり前のようにYouTubeにアップされますが、日本のテレビ局ではまだまだ、一部にアーティスト側への提供が見られる程度です。

制度上の制約があるとはいえ、紅白でのYOASOBIや B’z、藤井風さんのような歴史的なパフォーマンスが、「NHK+」の配信終了と同時に見られなくなってしまうのは、厳しい言い方ですが世界の損失ではと思ってしまいます。

加藤 個人的には、おっしゃるように、社会的価値の高い動画を残しておくことはNHKや紅白の存在価値を上げることに繋がるのでは、と思うのですが…。制度上まだ難しいのと、フルコーラスをYouTubeに上げることについては、日本と海外で捉え方が違うと感じています。

韓国ではKBSという公共番組の人気音楽番組「ミュージックバンク」などがアーカイブで見られるようになっているので、特に韓国のアーティストには「なぜ一週間でYouTubeの動画を削除するのか」と不思議がられます。しかもNHKは公共放送で、広告を配信できないので、YouTubeでいくら再生数が伸びても収入になりませんから、YouTubeに動画を上げる意味についてご理解いただくのも難しいときがあります。

徳力 アーティスト側が許可するのであれば、フルコーラスを載せていいのではと思いますが、そこはまだ限界があるわけですね。

一方で、米津玄師さんのYouTubeアカウントで連続テレビ小説『虎に翼』のオープニング映像がアップされていたのを見て、これは新しいと驚きました。米津さんは公式サイトからNHKの「パプリカ」の映像に飛べるようにもなっています。あれらは米津さんが映像や権利を買っているんですか。

加藤 素材提供については、NHKの関連団体であるNHKエンタープライズが素材提供事業を行っており、番組の一部を使用したい場合に買っていただけます。規定料金も公表されています。

徳力 なるほど。素材提供によって動画の権利が放送局からアーティスト側に移れば、ビルボードなどの音楽チャートで動画再生回数が反映されるはずなので、アーティスト側にとってもメリットは大きいはずです。米津さんはデジタル発の人だから、やはり先駆的ですね。素材提供は日本の音楽番組やパフォーマンス動画のYouTube展開においてヒントになる気がします。

加藤 私も個人的に、素材提供やライセンス販売は減少していく受信料収入の補填にもなるのではないかと考えています。ただ、アーティスト側にとっても放送局に対価を支払ってまで映像を自分たちのアカウントに載せて利益が出るかどうかなど課題はあります。ただ、私たちとしても、それだけの価値あるコンテンツをつくることを念頭に置くのは、無意味ではないと考えます。

※後編に続く
  
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