新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #17

藤井風が示す新時代ヒットの生まれ方と『NHK MUSIC』ブランドに見るNHKのグローバル戦略

 

「ブランド」立ち上げで視点を変える


徳力 昨年の藤井さんのNHKミュージックスペシャルは、冒頭で藤井さんが英語版のアルバム制作を発表するという衝撃的な内容でしたから、英語版アーカイブが1年間、ネットで見られるというのは本当に素晴らしいと思いました。NHKスペシャルのほうは、私も出演させていただいて驚いたのが、コーチェラに出場したNumber_iに密着取材していましたよね。超お宝映像を12月の放送まで半年以上も出さないというところが、ファンや私たち素人からするとびっくりでした。

加藤 裏話をしますと、2024年1月にYOASOBIとNewJeansのNHKスペシャル『世界に響く歌 日韓POPS新時代』を放送し、非常に好評だったことから、世界に羽ばたく日本の音楽の可能性についてNHKスペシャルをもう一本、つくることになりました。

折しもCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born(ブリン・バン・バン・ボーン)」が急速に世界に広がっていて、そのヒットの理由を探るところから始まり、他にもどんなトピックが加えられるかを考えたときに、コーチェラにも取材に行くことになりました。YOASOBIや新しい学校のリーダーズの出演は想定内だったのですが、Number_iは驚きでした。

徳力 デビューしたばかりでしたからね。とはいえ、元King & Princeのメンバーで、デビュー曲から凄まじいインパクトでした。

加藤 彼らの出演によって、コーチェラという存在もかなり日本のお茶の間に知られるようになったと思います。そしてやはり、彼らの志向が最初から海外にあったがゆえに、実現した面もあるでしょう。とにかくCreepy Nuts、Number_i、世界ツアーに挑戦した新しい学校のリーダーズと、それぞれのグループの海外での奮闘を丹念に追っていった結果が、NHKスペシャル『熱狂は世界を駆ける~J-POP新時代~』です。
  
画像引用:NHK公式サイト

徳力 なるほど。私たちからすると、すべての撮った映像を放出してほしいと思ってしまいますが、NHKとしてはあくまでドキュメンタリーの素材集めですからね。でも、「NHK MUSIC」チームとしてそういった動きをされているのは、凄く興味深いです。

「MUSIC AWARDS JAPAN」でNHKが中継に参加するのも大きな変化です。従来、地上波放送とネット配信の両立は日本のテレビ局ではなかなか実現しませんでしたから、YouTubeによる全世界配信をメインとするイベントに、NHKが乗っかるというのは画期的だと思いますね。

加藤 私たちも中継させてもらえるのはありがたいです。アワードはNHKエンタープライズが制作で入り、同時ではないもののYouTubeで全世界配信されるということには、これ以上ない大きな可能性を感じます。放送と配信は対立するのではなく、「日本の音楽を世界に届ける」という共通テーマに向けて共存共栄する方法を発明していかないといけないと思っています。

徳力 「発明」。いい言葉ですね。
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

加藤 紅白のダイジェスト動画のSNS投稿や、さらにさかのぼると、2022年にYouTubeチャンネルで「NHK MUSIC」というブランドを立ち上げたのも、ある意味「発明」だったと思います。

徳力 確かに「NHK MUSIC」が出現するまで、それまで何となくいるんだろうなと思っていたNHKの音楽組織が、初めて外から少し見えるようになった感じがあります。その意味で「ブランド」ですね。

加藤 NHKとしてYouTubeチャンネルを始めたのは、実はそれより少し前だったのですが、最初は報道や料理、ドキュメンタリーなど各種カテゴリーを分けなかったために、登録者数がまったく増えませんでした。そこで「NHK MUSIC」として音楽番組に特化したアカウントをつくったところ、登録者数が劇的に増え、『紅白』の時期になるとさらに増加したのです。現在の登録者数は60.5万人に達しています。

徳力 YouTubeで「NHK MUSIC」というブランドが浸透したと考えれば、先ほどの「MUSIC AWARDS JAPAN」への相乗りも、自然な流れですね。

加藤 対外的な意味のほかに、内部的にも大きな意義がありました。先にお話したように、NHKの主力音楽番組には「うたコン」「SONGS」「Venue101」がありますが、実は番組間の連携があまりなく、キャスティングに関してはライバルのような関係でした。そこに「NHK MUSIC」というブランドを立ち上げてデジタルをひとつの紐帯として繋がれたのは、音楽業界5団体が垣根を超えてCEIPA(※)を設立し、「MUSIC AWARDS JAPAN」を主催するのと似ているかもしれませんね。

※編集部注※
CEIPA:Japan Culture and Entertainment Industry Promotion Association(一般社団法人 カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会)


徳力 面白いですね。これまでNHKのなかで、それぞれの番組が別々に活動していたのが、「NHK MUSIC」という俯瞰的な視点で、ネットやグローバルを含めた音楽業界全体におけるNHKのポジショニングみたいなものを考えられるようになったわけですね。

加藤 もちろん、これまでも紅白というプロジェクトに向けて、各番組チームが協力していくという母体があったことは先にお話したとおりです。ただ、日々のデジタル戦略まで互いに把握し、全体を見て、デジタル発信を含めた最高の紅白をつくっていくという機運が生まれたのは、「NHK MUSIC」がひとつの契機だったと思います。

徳力 すごく本質的なお話な気がします。だからここ数年、NHKのイメージが変わってきたんでしょうね。企業でも従来型の狭いビジネスモデルで考えてしまうと、社内にもライバルがいたりするけれど、俯瞰してみると、以前は競合と認識してこなかった業種や、スマホやエンタメもライバルとして立ち現れてきます。

加藤 配信プラットフォーム然りですね。デジタルや海外に目を向けた「NHK MUSIC」の取り組みは、テレビ視聴率やCD売上の低下などさまざまな危機感があったからこそ生まれた潮流かもしれません。世界的に日本のテレビ局はデジタル施策が遅れていますが、NHKは常に少し先を見て、新しいことをしていきたいです。そのひとつの象徴が紅白でもあり、「オワコン」と言われるなかでどうやって一矢報いることができるかが勝負です。

徳力 現在もあれほどの視聴率を維持できているのは凄いですし、地上波とデジタルの融合が進むことで、紅白はアーティストが世代や国籍を超えて繋がる架け橋になれると思います。NHKの新しい取り組みが楽しみです。本日はありがとうございました。
 

対談後記


 NHKというと、1万人を超える職員がいる巨大な組織であることもあり、なにかと批判的な言説の対象になりがちですが、今回加藤さんのお話をお聞きして、あらためてNHKの中にいる一人ひとりの職員の方々の新しい挑戦の積み重ねこそが、紅白歌合戦におけるアーティストの素晴らしいパフォーマンスの実現であったり、NHKミュージックスペシャルなどの番組を通じた、私たちの新しい発見に繋がっていることがよく分かりました。

 特に日本のアーティストが世界を目指す上において、NHK MUSICのYouTubeチャンネルや「MUSIC AWARDS JAPAN」の中継など、NHKの方々が「日本の音楽を世界に届ける」方法の発明に注力してくれているのは素晴らしいニュースだと思いました。

 加藤さんをはじめとするNHKの方々の、これからの挑戦に引き続き注目したいと思います。(徳力基彦)
  
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