日本の広告費
フジテレビ事件が広告の健全化につながるか、「2024年 日本広告費」を識者はどう読み解いた?【多摩美術大学 佐藤達郎氏】
電通が2025年2月27日に発表した「2024年 日本の広告費」。総広告費は7兆6730億円(前年比104.9%)となり、3年連続で過去最高を更新した。企業収益の拡大や消費意欲の向上、世界的なイベント、インバウンド需要の回復が市場を押し上げた。特に、インターネット広告が成長し、SNS動画広告やコネクテッドTV広告が拡大を牽引した。また、テレビや屋外広告も回復し、デジタルとリアル施策の相乗効果で市場は拡大を続けている。
Agenda noteでは、マーケティング領域のプロフェッショナルに「2024年 日本の広告費」を読み解き、寄稿してもらった。第1弾は、多摩美術大学 教授の佐藤達郎氏。世界最高峰のクリエイティビティの祭典として知られる「カンヌライオンズ(旧カンヌ国際広告祭)」で、2004年にフィルム部門で日本代表審査員を務め、昨年まで延べ19回にわたり現地を訪れ、毎年の傾向や注目作をレポートし続けている。長年、海外の広告コミュニケーションを研究してきた佐藤氏が、「2024年 日本の広告費」をもとに、 市場の変化が広告ビジネスに与える影響を考察。特に インターネット広告の「健全化」の行方 について、2025年以降の動向を探る。
Agenda noteでは、マーケティング領域のプロフェッショナルに「2024年 日本の広告費」を読み解き、寄稿してもらった。第1弾は、多摩美術大学 教授の佐藤達郎氏。世界最高峰のクリエイティビティの祭典として知られる「カンヌライオンズ(旧カンヌ国際広告祭)」で、2004年にフィルム部門で日本代表審査員を務め、昨年まで延べ19回にわたり現地を訪れ、毎年の傾向や注目作をレポートし続けている。長年、海外の広告コミュニケーションを研究してきた佐藤氏が、「2024年 日本の広告費」をもとに、 市場の変化が広告ビジネスに与える影響を考察。特に インターネット広告の「健全化」の行方 について、2025年以降の動向を探る。
インターネット広告全体の「健全化」
私は決して数字が得意なわけではありませんが、毎年発表される「日本の広告費」は、しっかりと注目するようにしています。
この集計は、「事業会社(アドバタイザー)の皆さんが、自社の商品やサービスの広告コミュニケーションを載せるために、どのメディアがより有効だと考えたか?」を総体として見ることができます。広告コミュニケーションのトレンドをウォッチし、研究している立場からすると、これは欠かせないデータだと捉えています。

多摩美術大学教授 / コミュニケーション・ラボ 代表
佐藤 達郎 氏
多摩美術大学教授(広告論 / マーケティング論 / メディア論)、コミュニケーション・ラボ代表。学会活動として、日本広告学会常任理事、日本広報学会理事、日本マーケティング学会ブランドマネージャー制度研究会前リーダー、WOMJ(クチコミマーケティング協会)理事<元理事長>、公共コミュニケーション学会理事等を努める。ビジネスの世界では、小田急エージェンシー・クリエイティブアドバイザー、古河電池社外取締役など。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DY→2011年4月より現職。著書に『「これからの広告」の教科書』、『自分を広告する技術』、『教えて!カンヌ国際広告祭』等がある。
佐藤 達郎 氏
多摩美術大学教授(広告論 / マーケティング論 / メディア論)、コミュニケーション・ラボ代表。学会活動として、日本広告学会常任理事、日本広報学会理事、日本マーケティング学会ブランドマネージャー制度研究会前リーダー、WOMJ(クチコミマーケティング協会)理事<元理事長>、公共コミュニケーション学会理事等を努める。ビジネスの世界では、小田急エージェンシー・クリエイティブアドバイザー、古河電池社外取締役など。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DY→2011年4月より現職。著書に『「これからの広告」の教科書』、『自分を広告する技術』、『教えて!カンヌ国際広告祭』等がある。
2024年の数字については、他の人が言及してくれると思うので、ここでは2025年以降の数字について予測をしてみます。長年広告ビジネスとその研究に携わって来ましたが、2024年のフジテレビの事件ほど、多くのスポンサーが長期間にわたり出稿を取り止めたケースは、これまで見たことも聞いたこともなく、大きな驚きでした。
これは広告業界にとって由由しき事態であり、フジテレビ1社の問題ではなく、広告ビジネス全体に影響を及ぼすだろうと考えています。事業会社側がインターネットではなく、テレビをメディアとして使う大きな理由のひとつが、「テレビCMに出稿している限り、そんなに怪しいことにはならない」という考えがあったように思います。テレビ放送事業は国の認可事業でもあり、ある程度安心できます。それに対して、インターネット広告は怪しい媒体が含まれていて、いわゆるブランド棄損になりかねないというリスクがあります。
総務省のサイト経由で読める、クオリティメディアコンソーシアム 事務局長の長澤秀行氏の資料(2024年3月5日付)によれば、インターネット広告市場で「日本では『掲載メディアを指定しないオープンマーケットプレイス』が運用型市場を独占」しており、多くは掲載メディア面を無視し、クリックに対して広告費が発生するため、ユーザーが広告を見ただけではタダだと言います。一見、効率的に見えますが、怪しいメディアに掲載されることでのブランド棄損の可能性は大きいと考えられ、安心はできません。
それに対して米国では、エージェンシーがメディアを指定買いするPMP(Private Market Place)が発達しており(運用型市場の50%以上)、運用型でありながらもブランドに適したメディアを指定して予算投下することができ、PV(広告閲覧)に対して広告料が発生します。要するに、費用対効果としては今の日本で主流のものより少し高く見えますが、「より安心できるインターネット広告」だと言えるでしょう。
今回のフジテレビの事件をきっかけとして、来年以降テレビCMに当てられていた費用が、PMPのような、「より安全なインターネット広告」に流れると私は予想しています。そして、それはインターネット広告全体の「健全化」にも貢献することであり、大いに期待したいとも考えているところです。来年は果たして、どうなるでしょうか。来年もまた「日本の広告費」を注視し続けたいと思います。