新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #21
ドラマ『silent』で一躍注目されたTVerのキーパーソンが語る、デジタル時代におけるテレビCMの価値
2025/06/26
広告の「健全性」と「クリエイティビティ」をどう高める?
徳力 TVerの2024年度の広告売上が前年度比221%を記録したということが話題になりました。TVerの広告ビジネスは、現状どういう仕組みなのですか?
蜷川 指定枠(放送したい番組の枠)でも、運用型(番組を指定しない枠)でも購入可能です。各局がテレビ放送の枠と合わせて売ることもあるし、TVerとして横断的に売ることもあります。今後はTVerとしての広告販売をさらに強化していきたいと考えています。
テレビ局のあり方についていろいろな議論がされている昨今ですが、TVerの広告の優位性の一つは「健全性」ではないかと思っています。一つひとつの広告を目視で確認しているのはテレビCMだけ。間違ってもフェイク広告は流れません。もちろんソーシャルメディアの広告がすべて悪いと言うことではありませんが、ああいったものが出づらいのは、一つの価値と言えると思います。
徳力 アドネットワーク(複数のWebサイトやSNS、ブログなどを集めた広告配信ネットワーク)で表示される広告を見ていると、本当にそう感じられますよね。
コンテンツの視聴・閲覧行動を邪魔するように「30秒間視聴してください」と表示される広告も増えていますが、あれは、ある種の“罰ゲーム”のような体験ですよね。そんな広告でも、広告主の担当者がExcelで管理しているだけだと「効果が高い広告」に分類されてしまう。広告主のマネジメント層も自分たちの広告を見ていないから、視聴者から嫌われるようなことをしていると気づかない。そうして、広告の本来の目的である「消費者・顧客に好きになってもらう」こととの乖離が進んでいる気がしています。
TVerは、テレビ広告の健全性やクリーンさをどう担保していますか?

note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏
徳力 基彦 氏
蜷川 「健全性」と言葉で言うだけではなく、指標化・数値化することが急務だと思っています。ブランドリフトサーベイ(広告やキャンペーンなどのマーケティング施策の効果を測定する調査)も、ダウンのほうはあまり数値化されません。ユーザーの嫌悪感を指標化することを考えていかなければいけないと感じています。TVerがそういった挑戦をしていくことで、広告主の意識も変えていけるのではと思います。
また、広告会社に丸投げせず、広告主にメディアの特徴を直接お伝えする努力をしなければいけないと感じています。例えば今回の取材のように他社さんのメディアを通じて発信するなどの周知活動や、日頃の営業活動も含め、改めて考えていかないといけないですね。
徳力 個人的にTVerに期待しているのは、コンテンツと連動した広告にトライしていただくことです。TBSの『リアル脱出ゲームTV』では、日産自動車専用の広告がつくられていました。視聴者からすると、番組の登場人物が出てくることで「ノイズ」だと感じず、作品の延長としてCMを視聴することができました。テレビCMは「トイレタイム」と揶揄されることもありますが、僕はCM自体が一つの作品だとも思っているので、久々に良いCMだなと思ったんです。
蜷川 広告主の1社提供でコンテンツをつくる動きはかねてからありますが、TVerがやるには制作リソースがまだまだ不足するので、まずは各局でそういう企画をどんどん仕掛けて欲しいと思っています。
海外の放送局は、広告セクションにクリエイターを配置しているところも多いです。やはりコンテンツをつくれること、そしてメディアを持っていることが、僕らの最大の強み。「広告は、広告会社のクリエイターがつくるもの」という思い込みを捨てて、テレビの人間がもっと広告づくりにコミットしていってもいいのかもしれませんね。

徳力 「この番組を見た視聴者にはこういうものが刺さるはず」といった、本当の意味でのネイティブアド(メディア上のコンテンツに溶け込むように表示される広告)。きっと、すでにたくさんのノウハウをお持ちだと思います。健全性を強みに、ぜひそこで強みを発揮していただきたいですね。
蜷川 TVerが制作したスポンサードコンテンツの事例として、ある通信キャリア様から「昼間にエンターテインメントを楽しんでほしい」という要望をいただいて制作した、15分程度で消費できるオリジナルコンテンツが挙げられます。そういった取り組みが、各局で進めばいいですね。
僕が言う健全性は、サステナブルな意味も含みます。つまりコンテンツの制作側に、正当な報酬が還元され、クオリティの高いコンテンツが継続してつくられるということです。残念ながら、現状は違法コンテンツに広告が付いて、報酬もそちらに流れるという事態が起こっています。ビジネススキームそのものの問題でもありますが、健全なサイクルができなければ、健全なコンテンツ産業が継続していきません。
そのサイクルを確立して、世の中に質の高いコンテンツをどんどん送り出して、多くの視聴者の暮らしや人生を豊かにしていく。それが僕らテレビ業界の、最大の社会貢献だと思っています。
- 他の連載記事:
-
新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ の記事一覧
- 1
- 2