TOP PLAYER INTERVIEW #93

創業来最高益を達成 アミューズメント施設「GiGO」が明かす熱狂体験を実現するDXの最前線【執行役員 CDO 松沼雄祐氏】

 GENDA GiGO Entertainmentが展開するアミューズメント施設「GiGO(ギーゴ)」が、同社の2025年1月期通期決算で創業来最高益を達成したと発表した。近年GiGOは、デジタルトランスフォーメーション(DX)やマーケティングにおけるデータの利活用に注力しており、直近もGiGOアプリの新機能「GiGOリンク」のリリースやAIクラウドカメラの導入など、新しい取り組みを積極的に推進している。

 今回は、同社執行役員 CDO 兼 DX推進室 室長の松沼雄祐氏にインタビュー。事業成長につながっているマーケティング施策の詳細やその背景にある考え方など、リテールマーケティングの最前線に迫った。
 

段階的かつ実証的プロセスでDX施策の全社展開に成功


――GiGOさんは創業来最高益を達成するなど、驚異的な成長を遂げています。さまざまな要因があると思いますが、特に成長を牽引した具体的な取り組みについてお聞かせください。

 まず着手したのは、これまでは人の経験や勘に委ねられていた業務を、外部から導入したデータやダッシュボードを活用してロジカルに意思決定できる体制へと転換すること。そして、データドリブンな文化を組織全体に浸透させることです。
 
株式会社GENDA データインテリジェンス室 室長
株式会社GENDA GiGO Entertainment
執行役員CDO 兼 DX推進室 室長
松沼 雄祐 氏

 2012年、株式会社サイバーエージェントに入社。セールス・広告商品開発を経て、2016年株式会社AbemaTVに出向し広告事業の立ち上げに従事。2017年、ウォルト・ディズニー・ジャパンに入社。"Manager – Analysis DTC"として、動画配信事業Disney+の日本ローンチとAPAC領域のマーケティング/コンテンツ戦略・データ分析を担当。2023年、株式会社GENDAに入社。グループ企業のPMI・事業開発・データ分析を担うBizDev & Analysisを立ち上げ、2024年よりGENDA GiGO Entertainmentのマーケティング部長を兼任しデータドリブン施策を推進。2025年4月より同社 執行役員 CDO 兼 DX推進室長。(現職)

 たとえば、これまではクレーンゲームなどで「どの景品を仕入れるのか」「どんなIPとコラボレーションするのか」といったことを、バイヤーが自らのセンスで決めていました。しかし、それを定量的に評価して仕入れの打率を上げたり、データに基づいて予算配分の最適化を図るなど、徹底的に手を入れました。

 この変革を実現するために、私たちはまず「現場に入り込むこと」から始めました。各店舗や担当者が日常的に使用している作業用のExcelファイルを一つひとつ丁寧に確認していくと、計算式の歪みやデータ連携の不備、過度に複雑化したロジックなどが散見されました。

 これらを、データサイエンスやAIといった最新技術の力を借りて、一つずつ修正していきました。地道な作業ではありますが、それを全店規模で行うだけでも、目に見える大きな成果につながりました。

――そのようなDXの取り組みを全社にスムーズに浸透させていくために、どのようなステップを踏まれたのでしょうか。

 DX施策の全社展開にあたっては、段階的かつ実証的なアプローチを重視しています。

 たとえば、GiGOグループのお店公式アプリ「GiGOアプリ」に新しい会員認証システムを導入するときには、最初にDXテスト協力店舗を選定しました。その店舗でプロトタイプを実際に稼働させ、試行錯誤しながらチューニングしていきました。

 次に、そこで成果が挙がったものを旗艦店や主要な大型店へに導入します。そこでもしっかりと成果が挙げられたら、全店舗へ本格展開するというステップを踏んでいます。
  
GiGO総本店

 このプロセスで重要だと考えているのは、徹底した効果検証と、現場にいる店舗スタッフとの密な連携です。新しいシステムやオペレーションを導入するときには、企画段階から店舗スタッフの意見を吸い上げ、導入後は彼らと一蓮托生の覚悟でオペレーションを磨き上げていく。この現場主義とデータドリブンな意思決定の両立こそが、DXを成功させ、全社に定着させるためのポイントだと考えています。
 

データ活用で、業務効率化・在庫削減・販売機会増大を実現


――具体的にはどのように、データドリブンな業務体制へと移行していったのでしょうか。

 あらゆる意思決定を、データに基づいてテコ入れしていきました。当社のゲームセンター事業の売上の約7割はプライズゲーム、いわゆるクレーンゲームが占めています。残り約3割がメダルゲームやプリントシール機、プリクラ、格闘ゲームなどのアーケードゲームが占めるという構成です。業績を飛躍的に向上させるためには、売上の大半を占めるプライズゲーム領域の収益性を最大化することが効果的だと判断し、まずはそこにフォーカスして、DX施策を行いました。
  
GiGO店内の様子(大阪道頓堀本店)

 プライズゲームの景品は、定番のお菓子類、各玩具メーカーさんが発売している予約景品、そして自社でIPの版元とライセンス契約を結び企画・製造するオリジナル景品の大きく3種類あります。その中でも特に物量が多い予約景品について、AIを活用したデータドリブンな需要予測や配分システムの仕組みを導入しました。これにより、メーカーさんから仕入れた膨大な種類の景品を、全国約450店舗それぞれの特性や販売実績に応じて最適に割り振ることが可能になりました。

 当社ではこの施策を「プロジェクトPAO」と呼んで取り組んでいます。このシステムを導入する前までは、毎月300~500種類にも及ぶアイテムを、Excelを駆使して人力で各店舗に配分していました。これは、一度に数万行のデータを扱うという膨大な作業量であることに加え、いくつかの課題を抱えていました。
  

 たとえば、人気の景品は売上が高い一部の店舗に割り振られてしまい、他の店舗では魅力的な景品が不足して、売上が伸び悩む…という負の循環が起こっていました。また、配分基準も担当バイヤーの経験やメーカー側のタグ付けに依存しており、客観的な根拠に乏しい状態でした。

 そこで「プロジェクトPAO」では、各店舗ごとの予算規模や客層、ゲーム機のサイズなどに合わせて、最適な景品を最適な量、自動で割り振るプログラムを開発しました。それにより、従来はバイヤー4人が丸2日かけていた配分作業が自動化され、不良在庫の削減と販売機会の最大化に大きく貢献しました。

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