広報・PR #23
7月5日の“予言”に学ぶ ー 人を動かすのは“情報”ではなく"気配"。企業広報に求められる〈空気の設計〉
2025/07/15
空気の設計で失敗した企業の教訓
実際、空気の読み違いで損失を出した企業は少なくない。ある観光地では正確な安全データの発信に努めたものの、同時期にSNSで「現地の人も避けている」という憶測が拡散され、公式発表よりもこちらの憶測のほうが信じられてしまった。データ自体は正しかったが、気配の設計に失敗してしまったケースだ。こうした空気の設計を軽視すると、いくら正しい情報を発信しても、企業の評判や売上に直接影響が出る。これは理論ではなく、現実的な経
空気の設計が抱えるリスク管理の課題
空気の設計には実務上の難しい問題がある。私自身、クライアントから「とにかく話題にしてほしい」と言われることがある。しかし、短期的な注目を集めるためだけの空気づくりは、中長期的には必ず反動が来る。
実際、過度に演出された「バズ」は、後から実態との乖離が明らかになったときのダメージが大きい。SNSで一時的に盛り上がったものの、現実とのギャップが露呈して炎上したケースを何度も見てきた。空気の設計は、現実との適切なバランスを保たなければ、逆にリスクを高めることになる。
さらに厄介なのは、一度つくり出した空気は制御が難しいことだ。想定以上に拡散してしまったり、意図しない方向に解釈されたりするリスクは常にある。私自身、「これくらいなら大丈夫」と思った施策が予想を超えて広がり、後から軌道修正に苦労した経験がある。
現実的な空気づくりの運用課題
現場で最も困るのは、空気の設計にかかる時間と労力だ。従来の広報業務に加えて、SNSの文脈を読み、現地の空気を感じ取り、文化的な翻訳を行う作業は、想像以上に手間がかかる。一つのキャンペーンで空気の設計まで含めると、私の経験上の感覚として、従来の3倍近くの工数が必要になることもある。しかし、この投資を惜しむと、結果的に大きな機会損失につながる。
経営陣にこの重要性を理解してもらい、適切なリソースを確保することが、実務担当者にとっての重要な役割になっている。
PR戦略が設計すべきは「行きたくなる空気」
いま、企業や自治体に求められているのは、正しく説明することではなく、行きたくなる空気をいかにしてつくることできるかである。観光だけでなく、商品購買、就職応募、投資判断。あらゆる行動の背後には、他者の動きや社会の空気が複雑に作用している。
「言えば伝わる」「正しければ信じられる」という前提は、今の時代においてはすでに通用しない。これからのPRパーソンは、気配を設計するプロフェッショナルであるべきである。情報の設計から空気の編集へ。PRが社会に対して果たすべきこれからの重要な役割である。
私たちは、目に見えない気配を、意図をもって設計できるか。正確な情報を届けることと同じくらい、「どんな気配を生み出すか」が、企業の評価を左右する時代が到来しているといえる。
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