広報・PR
ジャングリア沖縄のPR再構築を考えるー沖縄とともに「大きな物語」を共創する
2025/08/12
PR視点から4つの提言
編集部の依頼により、ここからは、企業と地域が連携したプロジェクトにも参画した経験を持つPRの専門家として、これからジャングリア沖縄が多くの人に受け入れられ、支持されるテーマパークになっていくための、いくつかの提言をしていきたい。
- 【提言1】やんばると共創する中長期戦略の構築
問題の本質は「恐竜を見たいから行く」施設になってしまったことだ。これは、どちらかというと「レッドオーシャン」のジャンルだと個人的に思っている。沖縄県名護市の「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」をはじめ、国内には恐竜を見られるアトラクションを備えたテーマパークが複数存在し、沖縄らしさなくして遠方客を惹きつけるのは難しい。運営側は、これらの施設を十分に調べ把握しているはずだ。なぜあえて「ジャンルが重なる」とも思われかねない形となったのかはわからない。本来は「沖縄のジャングリアに行きたい」と思わせる大きな物語が必要である。

重要なのは、やんばるの自然とユネスコ世界自然遺産という価値を恐竜体験と融合させることだ。すでに検討中かもしれないが、エイサー公演や伝統工芸ワークショップ、マジムン伝説や御嶽信仰を恐竜と結びつけるアトラクションで、ハワイの「ポリネシア・カルチャー・センター」のような地域密着型の魅力を創出できる。地元住民や観光客とのワークショップで物語を共創し、単なるテーマパークから「沖縄の冒険」を体験できる場所へと昇華させることは可能だ。
オリオンビールやリウボウといった沖縄企業との対話を通じて、やんばる産コーヒーや伝統織物を活用したオリジナルグッズを開発していくことも考えられる。地元スタッフを「やんばるの語り部」として起用し、ビジネス臭を抑えた物語性のある接客を実現したい。
- 【提言2】テクノロジーを活用した顧客体験の改善
運用面では、アプリ不具合の解消やリアルタイム待ち時間表示の導入が急務である。那覇空港からのシャトルバス増便や、美ら海水族館との連携ツアーで、アクセス改善も図りたい。
費用や優先順位の問題はあるが、フロリダ ウォルト・ディズニー・ワールドの「バーチャルキュー」(注2)のような先進システムを参考に、顧客体験を最適化する必要がある。
※注2:公式アプリ「My Disney Experience」で アトラクションの乗車予約をする、オンラインの整理券発行システム。

- 【提言3】インフルエンサー戦略の見直し
招待客による過度に華やかな投稿は、一般客との温度差を生むリスクがつきものだ。私自身、企業のインフルエンサー施策を手がける中で、「リアリティの欠如」が最も危険な落とし穴だと痛感したことがある。
特に記憶に残るのは、ある高級レストランのオープニングで、(空気を読んだ)インフルエンサーが絶賛投稿を連発したものの、一般客からは「実際は全然違った」という批判が殺到したケースだ。短期的な話題化は実現できたが、長期的な信頼を損ねることにつながってしまった。 ※一部エピソードは再構築している
ジャングリアも同様のリスクを抱えている。今後は沖縄文化に精通した地元ブロガーや旅行系YouTuberの起用で、地域に根づく文化、風習、歴史、自然、食べ物など、より等身大の魅力を発信していくべきだろう。たとえば東京ディズニーリゾートの「Disney Cast Stories」(注3)のように、地元スタッフや住民の物語を前面に出すことで、自然な共感を生むことが可能かもしれない。
注3:ディズニーリゾートで働くキャストが、彼らの目線でパークの魅力を伝える「キャストブログ」。

東京ディズニーリゾート公式サイトの「Disney Cast Stories」より
- 【提言4】アジアインバウンドへの展開を意識した体験設計
台湾・韓国など飛行機で4時間圏のアジア富裕層へのアプローチでは、ターゲット別の戦略設計が今後の鍵となる。たとえば、自然志向の強い台湾ファミリー層には、将来的にヤンバルクイナ観察エコツアーとスパを組み合わせた「沖縄の自然物語」として訴求する手法も考えられる。韓国の若年層には、SNS映えするジャングリアツリーやインフィニティスパを「沖縄の冒険の一部」と位置づけ、K-POPコラボイベントの開催を検討するなど、対象ごとにきめ細かなコミュニケーションが有効かもしれない。

ジャングリア公式サイトより
すでに、現地アクティビティ・遊び体験予約サイトの「Klook」や「KKday」との連携によるチケット販売は始まっており、多言語対応の強化やオンライン予約の利便性向上は進められている。
今後は、泡盛やシーサーなど沖縄固有のモチーフを活かした地域限定商品の開発などによって、大きな物語と連動しつつ購買意欲を喚起するような土産戦略の構築も期待される。
持続可能な沖縄観光モデルへ
短期的には運用課題の解決と地元文化イベントの試験導入など小さな課題の解決、中期的には琉球文化アトラクションやエコツアーの追加など物語の強化、長期的にはやんばるの環境保全をPRした持続可能な観光モデルの確立(大きな物語の構築)を目指したい。
ジャングリアの開業PRは、小さな物語による話題化には成功したものの、ビジネスストーリーの前面押し出しによって大きな物語を損なった。やんばるの自然や地元企業との協業こそ進めたものの、琉球文化との融合やアクセス改善、料金の透明性が現時点ではまだ不十分だったのではないか。
私が専門とするPRの世界には残念ながら「神様」はどこにも存在しない。居るのはただ「生活者(市民)」だけである。地元の人々と一緒に体験をデザインし、現場に足を運んで本当のニーズを理解する。そんな地道な取り組みをこれからも続けることで、継続的な話題化と、広く国内全域やアジアからの観光客獲得が実現できるはずだ。
課題は山のようにあるかもしれないが、沖縄ならではの魅力でブランドを築き、真の「Power Vacance!!」(注4)を提供することが、今後の進むべき道だと考える。
※注4:ジャングリア沖縄のコンセプト。世界自然遺産「やんばる」から連なる大自然で体験する、ここにしかない本物のクオリティと興奮を意味する。
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