マーケティング・ビジネス課題を解決する学術研究 #7

AI活用が「議事録作成」で終わっている人へ マイケル・ポーターが40年前に言い当てた新技術を活用できる思考法とは

 

新技術活用のための「4ステップ」


 ポーター教授らは、40年前になぜこれほど正確な予測をできたのでしょうか。前ページの筆者作成の図を見ながら考えてみてください。

 その鍵は、以下の二点にあるのではないでしょうか。

1) 適切な粒度の要約と概念設定
 
新しい技術に対して、個々の機能と、それに対する「コインの裏返し」のようなベネフィットの考察にとどまらず、それらの機能が組み合わさることによって「何を可能にするのか」という問いと照らし合わせて、細かすぎず、粗すぎないサイズの粒度で本質を捉えた概念群を起点として整理している。

この論文では、新技術によって可能になることとして「データの記録・保管」「繰り返しタスクの自動化」「情報処理的プロセスの最適化」「物理的プロセスの最適化」「活動間の連携」「地理的拡大」の6つを設定しており、この粒度の設定と要約の質が的確である。

2) 経営インパクトへの視点移動
 
1で整理した概念群を起点として、それらを企業の価値提供を構成する個々の活動、企業全体としての振る舞い、複数の企業間の交渉力の変化といった、企業経営のインパクトを左右する問いに適合したレイヤーへと視点移動をしている。

この論文では、図の見出しにあるように①情報技術は何を可能にするのか、②活動においてどのように活用されるか、③プレイヤーにどのように影響するか、④力関係はどのように変わるかという、レイヤーを横断した4つのステップで考察が展開されている。それぞれのレイヤーにおける考察では「バリュー・チェーン」や「ファイブフォース」という、これまたポーター教授が提案した汎用性の高いフレームワークも援用することで、論点の設定を的確にしている。

 新しい技術の本質を見極め、その意味合いを4つのレイヤーに視点移動しながら考察するポーター教授の思考プロセスを、私は便宜的に「4ステップ」と呼んでいます。AI活用を議事録作成で終わらせず、攻め、もしくは守りにおいて大きなインパクトをもたらすために、この思考プロセスは使えるのではないでしょうか。

 ちなみにこの「4ステップ」は、インターネットが注目された2001年にポーター教授が発表した論文『戦略とインターネット (Strategy and the Internet)』においても、ほぼ踏襲されています。この論文もまた、当時「ニュー・エコノミー」という言葉とともに登場した、数多くの表層的な経営概念の誤りを的確に指摘したことで話題となりました(Porter 2001)。「4ステップ」の思考法が、現状の本質的な課題を見極め、次に行うべきことを見通すのに効果的であることが、これらの事例から実証されていると言えます。

 みなさんも、この「4ステップ」を参考にしながら、AI活用について考えてみてはいかがでしょうか ― と投げかけるだけでなく、私自身もこの「4ステップ」を使って実際に考察してみました。その例を次回、ご紹介いたしますね。

【参考文献】

Porter, M. E., & Millar, V. E. (1985). How information gives you competitive advantage. Harvard Business Review, 63(4), 149–160. (DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳「ITと競争優位」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』 2011年6月号)

Porter, M. E. (2001). Strategy and the internet. Harvard Business Review, 79(3), 62–79. (DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳「戦略とインターネット」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』 2011年6月号)
  
※写真の出典は123RF
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