国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #04

ノーベル平和賞から見えてきた「携帯電話」と「難民」の切っても切れない関係【UNHCR 守屋由紀】

性暴力について声をあげるムラド 氏

 もう一人の受賞者であるムラド氏は、ヤジディー教徒の女性です。2014年のIS(イスラム国)のイラク、モスル襲撃によって拉致された女性6000人の中の一人です。ヤジディー教は、イラク北部からトルコ東部に住むクルド人の一部が信仰する宗教で、イスラム原理主義に則ったISにとっては邪教です。襲撃で数千人の男性が虐殺されました。

 彼女は拉致された先の奴隷市場で売られ、「ISの妻」としてIS兵士たちの性奴隷となりました。拉致されてから3カ月後の11月に脱出に成功し、命からがら逃げ延びるまで昼夜にわたって性暴力にさらされたといいます。
 
イラクのヤジディー教徒の日常。
© UNHCR/Cengiz Yar
 逃亡先のドイツに辿りついてからも肉体的、精神的に深いダメージを負いながらも、拘束されている同胞や女性のために勇気をもって国際連合安全保障理事会などで声を上げ続けています。

 当然、性暴力の加害者は、2人の活動を良く思っているわけはありません。いまも命の危険にさらされています。性暴力について、世界中で泣き寝入りせず、声を上げようという動きが活発化しています。「#MeToo」運動もそうですね。

 そんな中での二人の受賞ですが、受賞で終わりということではありません。世界中の人がこの受賞をきっかけに「性暴力」のことを知り、考えるきっかけになればという意味での受賞。メディアとして、ノーベル平和賞が果たす役割ですね。
 
 二人の受賞理由は「戦争や紛争の武器として使われる性暴力を撲滅するために貢献した」というものでした。ムラドさんは、受賞後の記者会見で「一つの賞と一人の人間だけで目標は達成できない」と国際社会に向けて訴えました。

 「性暴力」の問題もそうですが、「難民問題」もそれが単独で存在しているわけではありません。人が難民になる原因は、大きく3つあると言われます。

 一つ目は、国内での武力紛争と治安の崩壊、暴力の蔓延。二つ目は、「迫害」。弱い立場の人を追い詰め、苦しめ、虐げることです。三つ目は、アフリカなど途上国における深刻な利権、腐敗、貧困、失業です。

 「性暴力」と「難民」問題が、実は密接な関係にあることがお分かりいただけると思います。私が楽しみにしていた居酒屋「大甚」での至福の“酒場浴”を返上せざるを得なくなったのは必然のことだったのでしょう。

 そして、さらに付け加えたいことがあります。
 
© UNHCR/Brian Sokol
 私が名古屋で問い合わせを受けたのは、すべて携帯電話を通じてです。いつでも、どこでも仕事ができる環境を実現してくれる携帯電話ですが、主要部品の一部として使われているのがレアメタルです。中でも、リチウムイオン電池に欠かせないコバルトは、世界産出量の50%以上がコンゴ産です。

 コンゴに性暴力が蔓延する原因の一つにレアメタルを巡る利権争いがあるとすれば、携帯電話の恩恵に浴する私たちも、自らとつながる問題として考えてみなければならないと思いました。
 
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